調査・研究・学習の様子
環境考古学研究室: 岡山理科大学総合情報学部 生物地球システム学科 富岡研究室

海外での発掘調査風景
 (2002年2003年)
 さすがに坊主頭の私は、野外調査の場合には帽子を被ります。特に他人様より日光に弱い体質なので、長 袖・長ズボンをできるだけ着用してます。奥に 写っている外国人の学生さんは、半ズボンだけで発掘しているのですが・・・・。
 上の写真はロシアでの様子です。このときは、出土した動物骨格が極めて脆かったので、保存処理を依頼されました。このような場合は、写真で手にしている 移植ゴテのような、考古学者にとって普段使いの道具のみならず、
一 般の方にとっては「こんな道具、どこで売られているんだ?」と思う特殊な道具を、我々骨屋さんはよく持ち込みます。例えば各 種化学樹脂をはじめ、歯医者さんが使うような金属製針状工具、外科医が使うメス類、化学実験で使用する 薬匙、先端が鋭く尖ったピンセット、油絵を描くときのペイントナイフ等。考古学者仲間にも理解出来ないような道具もあるので、休み時間には道具談義になる こともしばしばです。
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 一方で日本の伝統的保存処理材料である和紙、デンプン糊、割り箸や楊枝、竹串等、一見 して東アジア的な生活雑器までも駆使して慎重に保存処理作業を実施します。海外の野外調査で処理に必要な物資や道具が手に入らない場合は、自作するか代替 品の調達 に奔走することになります。特に樹脂等の化学薬品の中には飛行機で多量に輸送することが不可能な揮発性の高い薬剤があるので、頭を痛めるケースが多いので す。
 愉快だったのがベトナムでの和紙の代用品。手に入れた代用品は、実は彼の地のトイレットペーパーで した。それが現場に届けられるまで、私は作業に行き詰まってました。「弘法は筆を選ばず」という格言がありますが、和紙さえも選ばなければうまく作業が行 きにくいのが、このような補強剤です。竹の根が入り込んだ低地で出土した骨は、使い古されたスポンジのようにボロボロになっていて、ただ水溶性の樹脂をふ くませてみても、かき氷にシロップをかけるように崩れ行くありさまでした。乾燥をさせたいのですが、乾期にも関わらず降り続く雨で、地面は多量の湿気を帯 びています。この悪条件を克服し、資料の取り上げを成功に導いたのがベトナムのトイレットペーパーでした。この詳しい話は、
和紙による保存処理とベトナムの忍者を御覧ください。


貝塚調査における三次元データ測量風景
 (2004年:岡山県灘崎町彦崎貝塚)考古学では重要な遺物が出土すると、精密な測量器具(トータルステーション:この写真の右奥に写っ ている装置)を用いて出土位置を正確に記録します。この写真は岡山理科大学の学生と吉備国際大学の学生、さらに岡山県内の考古学者のF女史が発掘をしてい る様子です。

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時には深い穴の底、遺物が出ないこともある。

 (岡山県学南町)この写真は岡山理科大学の学生とともに、遺跡をもとめて地層を調査している様子です。この調査の時も一生懸命掘って 3.5m位掘り下げましたが遺物は発見できませんでした。でも、こんな時も慎重に地層の記録を残し、花粉やプラントオパールの包含状況や土壌pHを調査す る土壌サンプルを採集します。写真の奥の土層断面に蜂の巣のような穴があいているのがこの痕跡です。遺跡調査の際は、どんな浅い発掘区でもヘルメット着用 が必要です。

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時空を超えて、研究室へ

 (2001年: 岡山理科大学環境考古学研究室)時空を超えて、考古学者達が手に入れた環境遺物は、それぞれの専門家に送られて分析が始 まります。私たちの研究室では、動物考古学全般の分析を実施しますが、特に貝殻成長線分析が得意分野(?)とみなされているので、日本各地から送ら れた資料分析が実施されています。左側の写真は実験用テーブルの様子。この机には全国からの骨や貝殻が集い、クリーニング、同定、集計作業を受けることと なります。右側の写真はアサリ貝殻の断面に観察される成長線(いわゆる貝殻成長線)の顕微鏡写真です。
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実験考古学

 (1999年: 岡山某所)考古学の研究には、どうしても復元を実施することによってしか理解出来ない部分があります。ですから、条件 を科学的にコントロールして実験し、結果を吟味して、考古学の解釈に活かさねばなりません。ただし、これが本当は難しい!!実験すればするほどわからなく なることがたくさんあります。実験すれば簡単に問題解決できるなどと甘く考えないことをお勧めします。
 しかし、われわれはあえて実験を実施し、険しい行動 復元の道を辿るのです。
 写真は、縄文土器の復元実験です。ただ焼くだけでは実験になりませんし、電気釜では、縄文時代の野焼きと条件が違い過ぎます。ここでは、野焼きによって 焼成しながら、土器周辺の場所の温度変化を電子温度測定装置で記録した時の様子です。この実験は学芸員課程の展示実習の一環としてやりました。粘土を求め て大学の周りをうろついたり、燃料を調達したり、機械を調整したり・・・。今から思うと、当初の予想以上に手間がかかったのですが、学生諸君が嬉々として 取り組んでくれたのが印象的でした。このあと、真っ赤な鉄のように燃え上がった土器を驚いた目で見つめながらも、焚き火の端っこで私が仕込んだお芋を焼い て、みんなで腹の足しにしたのもなつかしい思い出です。松の薪は高温があがり、ドングリ類の薪では温度がなかなか上がらないのもこの実験で確認しました。
 こんな実験が大好きな、好奇心旺盛な学生が集まるのも岡山理科大学の特徴ですね。
 今 まで学生さんと焼成実験を実施したものは、土器・土偶・石器石材・骨・貝殻等をあげることができます。土器、土偶はわかっても、他のものを焼いたなん て・・・、と思われる方も多いでしょう?先史時代にはいろんなものが焼かれ、加工されたのです。実験してみると、骨格が白色に焼ける温度は、いままでの定 説よりも低い温度であっても、十分可能なこともわかりました。これはガス窯等の条件と野焼きの条件が微妙に異なっていることに起因するのかもしれません。 この骨の例でもわかるように、実験でわかることは少なく、わからなくなることが多いのです。でもそれが、考古学をまっとうな科学に成長させ、発展させる力 になっていくのだと信じています。学問は「客観性が命」ですから・・・ね。

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講演会: 海外の研究事例の学習

 (2004年: 岡山理科大学)日本考古学が専門であっても、それだけを研究していてはなかなか本質が判らないもの。岡山理科大学では、 講演会を開催して、学生さんの視野が広がるように、海外も含めさまざまな考古学の話題を学んでもらっています。写真は、ベトナム先史学研究所所長の Nguyen Van Viet先生の講演風景です。このときは学芸員課程の学生さんがつめかけてくれて120名程の聴講者がありました(大教室だったので学生さんが後ろにた まっていて、写真には写っていません)。話題は、『東南アジアにおける考古学と 博物館の展開』で、ベトナムでのドイモイ政策と文化財保護法施行にともなう、考古学研究の変化と、博物館の充実、国民の意識の変化等が熱く語られました。 英語での講演でしたが、富岡先生の通訳付きだったので、参加した英語嫌いの学生さんにもわかりやすかったでしょ?。先生同士が議論になった講演会後半の方 が、学生さんの受けが良かったのは意外でした。やっぱり議論って面白いんだよね・・・・。

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先端的 研究手法の開発
 (2004年: 岡山理科大学)教員は、文部科学省科学研究費に応募し、研究手法の開発や成果発表に取り組みます。写真は、この研究費で 獲得した微小部計測用レーザー変異計システムの写真です。システムの構築にはKEYENCE社とミツワ社さんが協力してくださいました。最近は、橿原考古 学研究所や奈良文化財研究所で、これよりも数段精度の高いレーザー顕微鏡システムで、たくさんの研究成果が生まれています。一方、岡山理科大学で私が目指 した変位計利用の方向性は「電子形取り器(考古学者にはマーコとかプロフィーラーと言うとわかりやすい)」でした。測定ポイントさえわかれば、あとは一つ の線で描かれる断面・表面の形状を解釈することに考古学者は慣れているのです。考古学者は、やきものや石器、金属器の実測をおこなう場合、必ず断面を測定 します。断面がないスケッチは、学術的価値が下がってしまいます。逆に、断面が正確に計られていると、非常に多くの情報が理解できることになるのです。
 一般の方も、理解してもらいやすいと思うのですが、断面の重要性は地形の場合により明確に把握できます。箱根駅伝や有名なマラソン大会のテレビ番組を見 ていると、走路のアップダウンの様子が断面図で示される場合がありますよね。コースが平面の地図で説明されるより、断面で示されていた方が、デコボコはわ かりやすいですよね。このデコボコの図を非接触でレーザーを使って描くことが、富岡研究室でのレーザー変位計利用の最大の目標でした。さらに、システムを 研究室から運びだせること、かつ低料金のシステムによって納得できる程度の精度が得られる事を証明し、汎用性を高めることを目標として研究をしています。
 このシステムにより、出土した遺物の微細な表面のデコボコが2ミクロメータ単位で正確に計測できるようになったの で、動物遺存体に残された微細な刃物傷断面の正確な計測・図化が可能になりましたし、土器や石器の微細な形状の測定にも活用できています。この装置を利用 して破損痕跡の客観的属性抽出も実施しております(クリックすると破損痕跡の分類基準を提示します)。 問題点は孔の計 測に弱いこと、レーザーを反射したり吸収する素材の資料には誤差が生じやすいことがあげられます。実験中はレーザーから目を守るゴーグルをはめるようにし ています。
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環境考古学研究室: 岡山理科大学総合情報学部 生物地球シス テム学科 富岡研究室
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