環境考古学卒業論文指南(一部製作中)

はじめに
 このページを見ただけで卒論ができるとは思わないでください。これは岡山理科大学の富岡研究室で卒業論文に取り組む際の指南であって、他大学、他のゼミ の先生方の指導と同質のものではありません。そんな指南はとてもできません。極言すれば、現代日本の大学では、多くの場合各研究室の指導教員がその研究室 のルールブックです。ですからこのページを読んだ他の研究室学生さんは、こ〜んな先生もいるんだ「へぇ〜」程度にしておいてください。くれぐれも担任をし ていただいているゼミの先生に「こうしてくれ」な〜んてリクエストしないでください。責任は負いかねます。
 富岡研究室ではゼミナール(Seminar)型式の教育法を実施。これは、少数の学生が集まって研究し、発表・討論を実施して、教育・研究対象を深く理 解しようとする教育方法です。

プレー・タグ(Play tag)型グループ・ゼミナールの進め方
 一種のグループ学習法のこと。演習の際、グループ内の役割を明確に分けることで題材を刺激的に思考する学習法。
  オーサー(author 発表者・著者)についてのオーガナイザー(organizer 組織者・主催者)とパネリスト(panelist 討論者)を設定し、グループを作ります。オーサーとオーガナイザー役はグループ内で回し、パネリストは別の班があれば率先してその班の構成員に依頼して、 役割を分担して下さい。さらに、それぞれの人物がそれぞれの役割を経験するようにして下さい。
 鬼ごっこ(Play tag)に例えれば、発表者が「鬼」、オーガナイザーは「審判」兼「鬼の協力者」、パネリストは「逃げる人」兼「鬼を攻撃する敵対者」。役割を明確にする ことで、敵対する相手にどのように対応してプレゼンテーションを実施するかを学ぶのです。対象となるオーサーが発表の際にオーガナイザーが司会や補助を務 め、パネリストが最低一つは質問や意見を示し、オーサーがそれに対して必ず説明・反論を行って下さい。実は基本的な事項や用語の説明の質問等も意外に有効 な攻め手です。また、パネリストはオーガナイザーの不手際も指摘する「ダメ出し」攻撃も可能です。オーサーとパネリストはそれに対して反撃を試みて、ゼミ ナールの劇的な展開を促します。採点は、オーサー役の場合のみならず、オーガナイザー役やパネリスト役にも実施されます。これは就職の際のグループ討論の 練習にもなります。
 講義を休む場合や、先生の出張で講義が既定の日に開催できない場合は、必ずこのグループとパネリストで都合を付けた補講の日程を班長がまとめ上げ、院生 ゼミ長と先生に提案してゼミを行うように調整してください。どうしようもない場合は、他のグループが不参加な状態でゼミを行うこととなります。その為、ゼ ミナール・グループはオーサーとオーガナイザーからなる2〜5人で構成します(多すぎると、出席日の調整が出来ないので・・・)。パネリストは自分の班の 人物をパネリスト役としてしまう「増員作戦」に出ることも可能です。学生諸君も発表会の際には全員の採点を実施し、採点状況を提出してもらいます。
 各班は班長を設定し、班員の動静を連絡し合って親睦を深め、共同社会の組織化を学習することになります。その中では如何に外圧に耐えるグループを作り上 げるか、という課題が生じ、内部での験算も積まれる事となります。そうしないと、自班が採点上不利になってしまうからです。
 班長とは別に一人学部ゼミ長を決定しておいて下さい。ゼミ長は先生との連絡役とゼミ開催の事前準備を行います。ゼミ長が忙しい場合は、班長がこれを補佐 します。大学院生は、院生ゼミ長を決定し、学部ゼミ長と班長を指導し、ゼミの進め方も教えてあげて下さい。また、院生ゼミ長は備品消耗品の管理・配給を 行って下さい。各自不足している物品は、班長・学部ゼミ長を通じて院生ゼミ長に購入を打診して下さい。院生ゼミ長は先生に購入を相談をして下さい。

年間計画の把握
 どんな計画だってはじまりがあって終わりがあるもの。簡単な計画表を書きましょう。まずルーズリーフだったら罫線タイプがBのものがベターです。まず、 現在が何月か、その月を左上に記述し、一ヶ月を上旬・中旬・下旬に3分割してカレンダーを一行一旬をあてます。
 下に例を示します。これをそのままワード等にカット&コピーをして編集し直し、利用してもかまいません。

卒論カレンダー(例)


卒論
学園・ゼ ミ・学会 活動予定 就職活動・ 進学準備・ 生活
講義・実習
10月〜

先輩の手 伝いをしてみて卒論の取材・分析・構成を経験してみる
最低限ゼミ担当の先生の講義はしっかり受講して勉強する
10月中 旬理大就職ガイダンス。エントリーやコンピュータ登録。先輩訪問。希望会社リストアップ。
3年生のうちに取得できる単位をがんばってとる。特に人類学実習3と4 を終了させる。
3月

先輩の発 表を聞き、自分の卒論題材に近い研究の発表をしっかり取材しておく。
研究室配属決定、学部卒業生・修士課程修了生卒修論発表会。集中的資料 整理 理大での 就職進路懇談会参加。
成績・再試験・進級についての連絡を必ず確認すること。


先輩の勉 強したコピー類をちゃっかりもらえるかも
研究室大掃除




卒業式謝恩会


4月

卒論個別 指導(1)ゼミ発表の順序、題材の模索。各自についてのオーガナイザー(組織者・主催者)とパネリスト(討論者)の設定。今後講義を休む場 合、補講には必ずこの2者と都合を付けてゼミを行うように調整すること。
オリエンテーション、講義開始
就職・進 路調査書提出。進路指導(1)
レポート課題提示


研究史の 調査  何故研究が開始されたのか。最初から今まで研究者はどんな人物で、きっかけは何であったのか。海外からの影響も含めて 調べるとbetter。資料批判も意識して取材する事が望ましい。この日はグループ内で進捗状況を発表し、ゼミ発表への対策を練る。
1年生との親睦会
サンプル採集旅行(1)
大学院進 学説明会
就職活動・求人数ピーク(就職活動で卒論の事も聞かれるので、卒論も本格的に取り組み開始)



第1回ゼ ミ発表(研究史)400字×4〜6程度、A41枚。表題と氏名を記入すること。10分発表10分討議。2回前の学生がオーガナイザーで、紹 介と時間管理。また、3回前の学生はパネラーとして必ずその発表に対して一つは質問を示すこと。また、オーガナイザーの不手際も含めて監視・指摘をする。 今後全ての発表で、この手法を行う。
連休


5月

資料の入 手。データ収集法の学習。分析対象の模式図、部分名称入りで製作。
ゴールデンウィーク:集中的資料整理、旭川水質調査
進路指導 (2)
公務員試験



クリーニ ング。写真撮影法の実習。資料の前処理・データ化の学習と準備。





資料登 録、写真撮影実際に実物かレプリカを撮影する。MSパワーポイント(以下PP)利用法の実習とコンテンツ製作。写真撮影の際にオーガナイ ザーとパネラーも立ち会い、発表者が説明を行う。これによって皆が実物を理解して議論に活かす。
考古学協会(先生出張関東)


6月

第2回ゼ ミ発表(分析手法・PP発表)どのような方法で分析し、データ化を図るのか。実物のデジカメ画像、フローチャートをパワーポイント化する。 また、実際に自分が既に実施したマスタープランを示しながら説明する事が望ましい。
進路指導 (3)
教育実習


分析デー タ蓄積(資料の数量化・非破壊・破壊分析作業開始)





比較デー タ収集(関連遺跡の取材、データ収集)
先生レポート採点で忙殺される

人類学実習中間試験
7月

データの コンピュータ登録・統計処理(エクセル使用、発表原稿はPPで編集しプレゼン準備) 先生日本文化財科学会で発表。一部学生は共同発表の可能性あり。
進路指導 (4)


第3回ゼ ミ発表(分析結果の予報)主体となる基礎データと比較資料のデータを観察し、どのような結果が得られる見通しか発表。発表15分、ディス カッション10分。 定期試験

博物館展示実習


遺跡デー タ・図面の整コンピュータデータの蓄積。エクセルとパワーポイント、ワードでデータ登録実施。特に次の段階で必要 になる基礎的な数値データを必ず集める。
定期試験(先生採点で忙殺される)。先生長期出張。夏休み。オープン キャンパス(先生必ず居ます)

人類学実習課題締め切り
8月

卒論個別 指導(2)追加分析・グラフ作図・統計分析 他大学の非常勤講師。考古学に関する海外の研究者の講演会。先生長期出 張(県内)。研究会発 表の原稿製作と手続き。




お盆休み
お盆休み
帰郷(進 路について両親・父兄とよく相談する)



データ整 理、資料調査(各自) 先生資料調査・長期出張(北海道)

9月

分析デー タについての議論(オーガナイザーと先生とに対して、エクセルの集計表・属性表を提出し25分説明。10分討議。パネラーもオブザーバーと して参加) 集中的な遺物整理作業
大学院試 験。進路指導 (5)
博物館実習


追加資料 調査旅行。第4回ゼミ発表会(分析結果の中間報告と中間的見解)。発表25分、ディスカッション10分。 中間発表会、集中的な遺物整理作業



卒論個別 指導(3)卒論進捗状況の詳細な報告と軌道修正の相談。写真レイアウト。スキャナー、パワーポイント原稿の製作。
講義開始・オリエンテーション
レポート課題提示
10月

図面ト レース・レイアウト・研究史文章・分析方法文章 オープンキャンパス(10/6)
奈良文研へ出張予定
研究会発表準備(1)




レイアウ ト修正・統計分析グラフレイアウト・分析文章(オーガナイザーと先生とに対して、エクセルの集計表・属性表を提出し25分説明。10分討 議。パネラーもオブザーバーとして参加) 奈良文研へ出張予定
研究会発表準備(2)




第5回ゼ ミ発表発表25分、ディスカッション10分。 研究会発表準備(3)

11月

考察執筆 開始
卒論個別指導(4)
修士課程進学希望学生は研究会発表を実施。
考古学協会(先生出張)。日本人類学会(先生出張)。
進路指導 (6)



考察執筆 継続 模式図・表・写真を必ず一つは挿入すること。
各種研究会発表(大学院進学者は発表義務)




緒言(は じめに)・結 論 執筆(オーガナイザーと先生とに対して、表記案を提出し20分説明。10分討議。パネラーもオブザーバーとして参加) 大学祭(先生必ず居ます)

人類学実習中間試験
12月

卒論個別 指導(5)
先生レポートの採点で忙殺される。先生忘年会(1)




卒業論文 第1次提出 第6回ゼミ発表(オーガナイザーがオーサーの作品を朗読する)発表25分、ディスカッション 10分。 岡山学シンポジウム。先生忘年会(2)




冬休み
先生札幌長期出張
帰郷

1月

グループ 内での事前打ち合わせ会(発表30分、ディスカッション10分)

初詣



質問や討 議をまとめ直し、取材し直し、データや研究史の見直し、補足。要旨原稿の概略説明。





卒業論文 第3次提出を利用した第7回ゼミ発表(発表30分、ディスカッション10分) 定期試験(先生採点で忙殺される):ゼミ内卒修論発表会

人類学実習課題締め切り
2月

要 旨製作(個別指導)卒業論文の微調整・やり直し。学科卒論発表会の説明。最後に素案を提出(オー ガナイザーと先生とに対して製作した要旨案を10分説明。10分討議。パネラーもオブザーバーとして参加) 定期試験:修論提出締め切り
学芸員・ 埋蔵文化財調査者求人



学科卒論 発表会リハーサル(出来た要旨を用いて、当日の予定通りに実施。発表はPlay tag方式ではない。要旨はA41〜2枚。発表時間3分)
卒論提出締め切り。
先生、科学研究費報告書〆切。




人類学系 卒論集の原稿〆切
考古学協会発表準備
卒業旅行

3月

学科卒論 発表会。お世話になった方々に卒論終了のお礼状送付。
春休み。集中的資料整理。




春休み
集中的資料整理。
引っ越し



春休み
集中的資料整理。
謝恩会


 卒論個別指導(1)ゼミ発表の順序決定

 ゼミナールでは毎月一回は発表や宿題を行ってもらいます。これは、大学に関する法律や規則で決められた量を遵守して、教員が君達に課題を与えるわけで す。この 発表の順番を年間通して計画しますので、この時までに年間計画をチェックしておいて下さい。
 さらにこの時までに自分が興味を持ち、卒論として取り組むことができる課題を絞り込みましょう。気が多すぎてもいけません。「二兎追う者、一兎も得ず」 です。格好の良さや、やりやすさで卒論テーマは選ばない事がコツです。卒論テーマは、その事だけをいくら考えても眠くならないようなテーマ、自分が全身全 霊で取り組めるテーマを選択してください。そのようなテーマを選択するならば、君達にとって卒論はライフワークの入口になる筈です。これは卒業後に進学し なくても、どんな職についても変わりはありません。卒論程明快な人生の節目:一里塚はありません。気に入った一里塚を作るべく、美意識を育てながら取り組 みましょう。

  研究史の調査
  いくら研究が自由だとはいえ、何も考えず研究をやっていても、他人に評価される客観的業績はできません。まずは、自分が興味を持った分野の研究の歴史を調 べて、その流れをまとめ、今では何が問題・争点となっているかまとめましょう。
 
 第1回ゼミ発表(研究史)
 まとめた内容についてゼミ発表を行ってもらいます。自分がどのような分析をやっていきたいのか、現在どのような説があって、それらはどのような問題を抱 え、改善策としてはどのような研究法があるのかを明確にする程良い発表と言えます。まずは、文献リスト(第1表)をエクセルに入力します。
筆 者名をあいうえお順(英語はabcd順)にソートして管理しましょう。また、印象的、あるいは 重要な図表類を5つ(第1〜5図)は準備して、キャプションも付けてA4の紙にレイアウトして発表に備えましょう。研究の歴史は、明治時代、大正〜第二次 世界大戦中、戦後〜1960年代、1970年代以降が区分する目安になりやすいでしょう。
 この発表は卒論の「第1章 仮題:研究史」としてワープロに登録しましょう。これからのゼミ発表は、短くても、箇条書きでも良いから必ずワープロで文章 を作ってフロッピーやハードディスクに記憶させておきます。また、自分が調査した成果は必ずファイルして管理しましょう。ファイル上手は卒論上手です。

    資料の入手。データ収集法の学習。
 次の段階として、自分の研究の目的に合致した資料を探索します。さらにその資料を見学させてもらうように、教員と相談をし、所蔵先の機関にかけ合いま しょう。ただし、相手機関がまだ未発表の資料であったり、重要文化財指定等を受け、自由に見学ができない制限がある資料は、希望しない方が現実的です。
 図書の発行年次や執筆者、ページ数といった基本データは必ずコピー類に書き込みましょう。

    クリーニング
 資料を入手した場合、資料が汚れている場合があります。遺跡から出た際にとりきれなかった土壌の除去や、長年展示されっぱなしで付着したホコリなどを丁 寧にクリーニングし、必要に応じてネーミングをします。クリーニングする場合、ブラシは軟毛を使ってください。ふつうの歯ブラシなどを使うと削れすぎて資 料を傷める場合があります。

    資料登録(属性表)、写真撮影
 資料に慣れるにあたって、いきなり属性表を製作するのは大変です。まずは資料の観察を始めましょう。そしてボチボチと属性表の製作を模索しましょう。最 初に先生や先輩に観察法を一から習おうとする態度は、お勧めしません。自分なりに悩みながら「属性とは何か」を哲学的に悩んで作業することが良いでしょ う。その結果、下に記す様な遺物の登録台帳(属性表:第2表)を製作してみましょう。判らない項目は、この段階では、空白にしておいて構いません。ただ し、将来必ず埋めるのを忘れないように。デジタルカメラによる写真撮影を 実施しておくと後の作業がスムーズに進みます。

    第2回ゼミ発表(分析手法)
 このゼミ発表では、どのような分析方法があるのか、第1回目のゼミ発表も踏まえてまとめてみましょう。さらに第1回目よりも具体的にその手法を詳細に論 じ、分 析方法や解釈における細かな問題点を適宜指摘し、諸説の資料批判を実施する訓練をしましょう。まず、研究史に沿って分析手法を整理するために、必ず第1回 で製作した論文リスト(第1表)を利用します。そのデータの中で同じ論文が二度挙げられるダブりが無いのかを確認したら、今度はそれを発表年次で並べ直し ます。データの並べ直しのことです。
 分析手法については、今後期待される分析手法の発達にまで言及することが望ましいですね。その際に、うまくまとめていく秘訣は、研究史を読んでみて、そ の内容を評価する自分自身の価値観、納得した気持ちに対し内的批判を実施することです。ワンランクアップの発表をしたいなら、自然科学分析の可能性を追求 するのが良いでしょう。
 理大はせっかく理系の大学ですから、自然科学的分析手法についても検討をしましょう。考古科学、環境考古学の場合、有効な論文が紹介されている雑誌は、 日本語では日本文化財科学会の『考古学と自然科学』や『発表要旨集』、英語ではArchaeological Science と Environmental  Archaeology です。 さらに、資料を登録した属性表(第2表)や資料の写真または実測図(第6〜7図)を準備してA4の紙にレイアウトして発表の準備としましょう。
 
この日の発表は、「第2章 仮題:分析手 法」として登録しましょう。箇条書きでも良いから、必ずワープロに文章を製作し発表に用いま しょう。
 この日の発表では、まず従来の「分析手法」の歴史を、第1表(年次別にソートしたもの)に沿ってまと めます。文章化できればすることが望ましいのですが、出来ない場合は、少なくとも口頭で研究の歴史を説明しましょう。
 また、第1回ゼミ発表の第1〜5図を用いて、その説明を補うようにしましょう。もし、補うことが出来なかったり、一つの時代や一人の研究者に偏った図版 ばかりを用いていたのなら、図の見直しを図りましょう。
 それを受けて、自分の分析対象とする資料の属性について、第2表「属性表」を用いながら、どのような属性分析を実施するのか、何に着眼しているのか、ど のような分析をするつもりなのかを具体的に説明しましょう。さらに、資料の写真や実測図を準備してその説明を補います。この表は何度も編集して最終的な卒 業論文でも利用しますので、大事に編集しましょう。もし、書き直しで壊してしまう可能性が危惧されるなら「ver」の番号を付けて新しいものをどんどん製 作して管理しましょう(ver1、ver2、ver3のように)。
 第2回目ゼミ発表は、課題内容が重層的(複雑って程ではない)になってきているので、挫折しそうになるかもしれませんが、がんばりましょう。何度もこの 文章を読み返しながら、作業をして、「ひととおり」の成果を準備して先生と議論することが重要です。

   分析 データ蓄積(資料の破壊分析開始)
 動物遺存体分析の場合、数が多い資料については破壊分析を実施する場合があります。写真や属性表への記録が済んだものから破壊分析を実施し始めましょ う。

    比較データ収集
 インターネットや図書、報告書を用いて、現生標本や、周辺遺跡、あるいは同時代遺跡の資料について所在を調査し、比較データを収集しましょう。その際に は、第2回ゼミ発表でのアドバイスを参照しましょう。場合に よっては、資料が近くにあるならば、先生に相談して先方にアポイントメントをとってから出かけて資料分析を実施しましょう。

    データのコンピュータ登録・統計処理
 まず、エクセル等の表計算ソフトを用いて収集したデータ類をまとめましょう。これは、第1表 属性表を発展させたもので、この時点で全ての項目に漏れな く記載が出来るようにスキルアップをしておきましょう。ただし、資料見学が出来ていないものは、空欄を残しておいて構いません。また、資料の破壊分析の成 果もこの属性表に反映させましょう。
 最初に作るのは各遺跡で出土した動物のリストです。これには、動物分類名を記します。基本的には標準和名と学名を記します。学名は、国際命名規約に則っ て記載されるもので、動物学研究の基礎的なルールですから欠かすことができません。門綱目科属種に沿って階層的に整理をしていきます。この階層的構造は、 このホームページの各種動物のデータで確認することができます。参考にしてください。
整理番号
遺跡
遺構
層位
時代・時期
大分類
小分類
部位
L/M/R
部分
成長度
色調
計測値
風化
破損
備考
既にふられている登録番号に枝番を設定して、整理しやすいようにする か、完全に別の番号をふる。遺物にもネーミングをすることが望ましい。
正式名称を記載する。
略称が多いが、本来の和名をも記載する方が望ましい。(例:SD01→ 溝SD01)
本来帰属する層。細分される場合はその名称も加える。(例:10a層、 3層帰属土壙覆土2b層)
時代名称は勿論、できれば絶対年代や世紀を記すとよい。
界門綱の階層の内、特定できたより下位の階層を記す。
目科属種(亜種)の階層の内、特定できたより下位の階層を記す。
出土資料が本来の体部のどの部位に由来するのかを、生物学、解剖学の用 語を用いて適切に示す。
解剖学的な位置として正中線に対する左・右・正中を示す。
近位端、遠位端、骨幹部、歯冠部、角幹部、上位、下位、前位、後位等、 部位の中で占める部分を示す。
関節に近い部分が化骨化しているか、歯の萌出や咬耗度等、成長に伴う形 質の変化等を示す。
骨格や貝殻の色調を、標準土色帳等を参考に記載しましょう。火を受けた 可能性の考えられる変色は、破損の項目で指摘すると良いでしょう。
Driesch等を参考に計測を実施して登録しましょう。
露天の状態での風化や水による水摩、ビビアナイトの析出等を記載しま しょう。
スパイラル剥離、切創、火を受けた可能性の指摘を記載します。不明の場 合やないと考えられる時は、その旨明言しましょう。切創の分析は別にまとめてあるので見ておき ましょう。


例) 

時代時代
地 区 遺 構 層 位 時 代時期
重 量(g) 大 分類 小 分類 部 位 LR 部 分 成 長度 色 調 計 測値 風 化 破 損 備 考
1 外 郭西区 土 壙5   3層 江戸時代後期
16.18 哺 乳綱 ニ ホンジカ 大 腿骨 R dist+dia f br Bd 42.16 viv   sp、yタイプ 2 と接合  


  第3回ゼミ発表(分析結果の予報)

 分析を蓄積する場合、途中経過で一度は集計し、写真を撮り、中間的な分析状況を発表しましょう。研究をやった最終段階で、ケアレスミス等から分析方法を 間違っていることに気が付いても後の祭りです。そのようなことが無いように、夏休み前にチェックするのがこの発表です。夏休みには先生が長期出張に行って しまいますから、その前までに蓄積する分析データの方向性を決めなければなりません。
 この発表は「第3章 仮題:分析結果」としましょう。
 まず、分析が集約されている第2表 属性表を準備します。これを時代・時期順にソートして、時代時期の変遷を整理します。さらに地域毎に分類して、地域 性が見られるかどうかを検討しましょう。
 また、第2回の発表で触れた従来の研究と比較を行い、その結論と同じ見通しが感じられるのか、「怪しい」と感じているのか等をできるだけ具体的に示しま しょう。特に顕微鏡分析やルーペでの拡大によって微細な構造を観察している場合は、顕微鏡写真やマクロ撮影の画像をA4の紙にレイアウトし、従来の研究と 比較して提示できるようにしましょう(例:第8図 資料の拡大図)。
 
    データのコンピュータ登録・統計処理の継続
 中間的な分析結果の予報は、この段階でコンピュータ登録し、統計処理をしてみましょう。これは最終段階で統計処理をする訓練にもなります。 エクセルや SPSSが有効なソフトです。エクセルでは統計分析、ヒストグラム、散布図等のうちいずれか2つは作ってみましょう。

    遺跡データ・図面の整理
 自分の扱う遺跡の属性表(登録台帳)をエクセルで作りましょう。 遺跡名、地名、資料内容、共伴遺物、時代時期、標高、水系・海域(河川、湖沼、淡水、 汽水、塩水等)、遺跡面積、遺構、集落パターン(基幹・作業用他)、地図、平面図、セクション図、出土状況図類を入手し、A4の紙にレイアウトします。

    卒論個別指導(2)
 第3回ゼミ発表の内容を受けて指導を実施します。もし、発表内容に変更を行いたい場合はその部分のみを差し替えてください。無駄に全部をプリントアウト して持ってくることは環境に優しくありません。

 追加分析

 グラフ作図
 
 統計分析  

 お盆休み
 お盆休みには博物館等はお休みですが、遺跡は見学自由の場合が多いです。できれば実家に帰るにあたって、卒論に関連する遺跡の見学に行くと良いでしょ う。その際には事前に正課外活動届けを提出するように、事前に計画しておいて下さい。

  追加資料調査旅行

 中間発表会(分析結果の中間報告と中間的見解)
 
  データ整理
  
  分析データ蓄積
  
  卒論個別指導(3)写真レイアウト
  
  図面トレース・レイアウト・研究史文章・分析方法文章
  
  レイアウト修正・統計分析グラフレイアウト・分析文章
  
  第4回ゼミ発表
  
  考察執筆開始

 卒論個別指導(4)

 修士課程進学希望学生は研究会発表を実施。
 
   考察執筆継続
  
  緒言・結論執筆
  
  卒論個別指導(5)
  
  卒業論文第1次提出
  
  冬休み
   
   
    ゼミでの最終発表
   
   
   
    学科卒論発表会

環境考古学研究室: 岡山理科大学総合情報学部 生物地球システム学科 富岡研 究室

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