レポート製作のコツ(主 として、岡山理科大学1,2年生に向けて。

 
常に必要なことは、レポートを読む人物が何を求めているか意識すること。
 ほとんどの場合、求められているのは講義の教科書の丸写しではなく、あなた方が「何を成し遂げているか」表現することです。大学の実習以外の講義に際し ては、大学生は法律上、講義の倍の時間の予習復習を することが必要です。その中で、何を学び、理解し、表現するかがレポートには問われています。それでは、レポートの達人になる要点を以下に記します。

 自己分析の達人になれ
 就職活動開始直前の3年生になってはじめて自己分析をする程、泥縄なことはない。自己分析は、機械的なシステムで割り出された結果であるし、それで個性 が全て表現されるものではない。だからといって第三者が客観的手法で君達をどのように把握するか、知ることも悪いことではない。ただし、誰かにとやかく言 われる前に、自分で自分を観察し、欠点を克服しながら自分にあった仕事をバリバリできるように、自己を高めていくこと。これも魅力的なことですよね。4年 制大学が長い時間をかけて学生を教育し、社会に送り出す背景には、このような欠点克服を時間をかけて実施することにあります。そのためにも、レポートに際 して安易に他人に質問して、自分が深く理解しないままレポートを仕上げてしまったり、友人や先輩の書いたものを写してしまうことは、せっかく君らが伸びて いく可能性を摘んでしまうことになりかねません。注意しましょう。
 文字は人格の窓の様なもので、性格や癖が出やすいものです。自分の氏名一つとっても、しっかりした文字が書ける様に、意識して丁寧な文字を書きましょ う。丁寧な文字は決して遅く書く文字ではありません。しっかりと、自分が書く文字を見ながら書けば、自然に丁寧な文字に変わってきます。また、しっかりし た文字を書き、しっかりしたレポートを書く訓練をしていくと、明らかに人格も変わってきます。たまに学生さんと話しをするのですが、私の研究室でみっちり と訓練を積んだ学生は、大学に入りたての頃の写真と卒業後の写真の顔の表情や文字が明らかに異なる場合があります。これは、勉強によって人格が明らかに成 長したものだと受け取れます。私自身もこのようなことは、学生時代に経験しました。未だにきれいな字とは言えませんが、他人にも読める丁寧な字が書けるよ うになっていったのは、ちょうど大学生の頃でしたし、腰を据えて数多くの論文や図書を論破することに平気になっていき、それが楽しく思えるようになったの も大学生の1・2年生の時でした。
 レポートはまさに自己表現です。レポートにはあなた方の人格・性癖・指向性が全て表れてくるものです。ところが、レポートを軽視して、教科書や推薦図書 を書き写すだけならば、読み手は「この人間はコピー機程度の機能しかない」と判断します。(ひどい学生は、自由課題のレポートだと、他の講義で発表した内 容を使い回すケースさえあります。これは、自分の為にも止めましょう。)でも、君達は機械程度の実力ってわけではないはず。つまり、読み手の誤解を招いて しまったわけです。それでは、レポートに対して自己表現をどんな風にするべきか。
 レポートには、取材・分析・構成(文 章・画像・表・グラフ・統計分析)の作業があります。この各作業で全力を尽くすのも重要な取り組みですが、初心者でよくある失敗は取材にだけ力を注いで、 分析・構成がおろそかになるというケースです。これでは、ただ調べただけ、本を写しまくっただけ、という評価になりかねません。このような失敗をしない様 にするには、分析・構成作業の部分で自分の得意な作業を理解し、その部分を引き立てながら、取材・分析・構成を仕上げて行くことが重要なのです。
 4年制大学で学ぶ学生達が日頃指導を受けている作業としては、コンピュータを利用したデータ整理・分析・構成作業です。MS社のソフトで言えばWord (ワード:ワードプロセッサソフト)、Excel(エクセル:表計算・グラフ作図ソフト)によるデータ整理作業が代表的なものですね。これ以外に Justsystem社の一太郎(ワードプロセッサソフト)やAdobe社Photoshop(フォトショップ:デジタル画像編集ソフト)等も学生諸君は 触れることが多いソフトの様です。このようなソフトを使いこなすことは就職に際しても評価されるスキル(熟 達した技術)ですから、情報科学系の講義を受講したり、情報処理教育センターのセミナー等を利用して是非勉強しておいてください。
 このような作業を経験しておいて、自分が「面白いな!」と感じるも作業を会得し、その作業をスキルとして磨き上げ、そのスキルを常にどんな資料に対して も発揮できるように、意識を高めること。これが「自己分析の達人」への道であり、「レポートの達人」への道です。つまり、アルバイトをしていても、講義を 受けている時でも、常にコンピュータソフトを思い起こし、「こんな内容はこんな風に整理できるな」「こんな統計処理や統計グラフが作れるな」「こんな撮影 をすればこんな画像が得られて、こんな解説が書けるな」等と思うことです。さらに重要なのは、このように思ったことを実際にやってみたり、一緒に学んでい る友達に話してみることです。取材や分析・構成において、第三者から忌憚のないダメだしをくらうこと程、若い君らにとって良い経験はありません。
  例えば、ワープロを利用した場合、何気なくやってしまいがちな原稿のプリントアウト。これも紙の表裏を間違えたら出来は大きく変わってしまいます。そんな ノウハウを、つまらないものとして馬鹿にせず、きっちり間違いなくやっていけるようになりましょう。そのような一つ一つの積み重ねが、レポートの達人への 道です。
 さて、以下に実践的なレポート製作技法を書きます。中には、時々専門用語が出てきます。事前に『研究ハンドブック』や資料批判についての図書を読み込ん で、専門用語に慣れておくと理解しやすいでしょう。あるいは、これらの図書やプリントを側に置いて、読むのも良いでしょう。

取材
 まず取材
です。いきなり図書館に行って本棚に向かって資料探しをすることは慎みましょう。最初に教科書や推薦図書を読みます。図 書を読むのには、時間をかけすぎず、メモも過剰にとることはせず、最初は一気に読んでみましょう。その後、何度か繰り返して読んでみて、内容をまとめたり 整理するのが良いでしょう。また、図書は過剰にコピーしまくらないこと。学生の中には、コピーをとるだけで、安心して、内容をロクに読まない人物が数多く 見受けられます。コピーをとるという難渋する作業が、勉強というこれまた難渋する作業の代償行為になってしまい、本質を追究する前に、作業にだけ疲れてい るという現象なわけです。コピーをとるなら、今時小学生でも出来ます。このようなコピー人のままでは、会社に入ってもお茶くみとコピー作業しか回されなく なってしまいますし、リストラ人員の好材と見なされかねません。(勿論、おいしいお茶を入れることは文化的にも貴重なスキルですから、ここではこの作業を 馬鹿にしている訳ではありません。念のため・・・。)図書館で、限られた開館時間内に集中して取材し、以下の様にメモや下書きをつくって行くことがお勧め です。
 レポートには、教科書以外の文献の引用が必要です。これを参考図書と呼びますが、これ
については、過去20年以内の比較的新しい 文献を使用すること(できれば過去5年以内が望ましいが全ての分野で、過去5年以内に良書が出版されているとは限らない)。原典や直接資料(実物)を直接 分析している文献を利用することがコツです。さらに学術的にしっかりした構成を持つ図書を利用することです。学術的高度さを推量するには、その図書が正確 な引用 証明を実施しているか確認することが重要です。
 レポートの課題に沿って内容を把握したらルーズリーフに要点を抜き書きします。直接コンピュータに入れる人もいらっしゃいますが、表現を練っていく為に も、最初はペンで記述し、推敲を繰り返す方が良いでしょう。私は、A4ルーズリーフ(B5よりも大きめです)の愛用者です。この場合ルーズリーフを片面の み使用するのも後のデータ整理にとって有効な方法です。ここでルーズリーフを利用するのは、ノートを分解して、自由に配置を変更できるからです。私の場 合、図面や写真を転載することが多かったので、2〜3 mm方眼のルーズリーフを利用することが多いです。図書や論文を写したり、引用する毎に、ルーズリーフにはハーバード式の引用を書き込み、使用した図書は 参考文献リストに記述しましょう。このように作ったルーズリーフは、私が大学で勉強を始めた20年以上前のものでも今でも現役で私は利用しています。
 
特に、君達が選んだテーマに関する、自然科学的分析手法や統計的分析手法についても、取材しておき、発表されている成果や内容を ルーズリーフに書き留めておきましょう。これは後述する分析の際に役立ちますので、取材することをお勧めします。
 
分析 
 分析に際しては、自分の意見や客観的事実を明らかにする為の下書きが重要です。引用なのか、オリジナルの意見なのか、明確にわかるようにメモ をとります。引用は、必ずハーバード方式で示します。ページを記載することも忘れずに!
 まず、執筆者や図書について、外的批判をしましょう。執筆者は、どのような勉強をし、どのような機関に属し、誰を師匠として学んできたのか、出版社や編 集者はどのような意図でこの図書を編纂したのか、出版物の前書きや後書き、執筆者の紹介欄を把握することも重要な外的批判になります。さらに出版物の出版 年を並べてみて、研究者の系譜(学閥や門閥、同一大学出身者等)がわかるように配置や記述法の工夫(ペンの色を変える等)をしてみて、各図書や論文の関係 を年表の様に把握することも面白い作業です。この表は、結構大きなものになる場合があります。私はA4のコピー用紙を貼り付けたり、ルーズリーフを貼り合 わせて作る場合が多いですね。この作業もいきなりコンピュータに入力するのはお勧めしません。
 さらに図書を読んで、内容の問題に入り込みます。読みながら何かを感じた度に、ルーズリーフに書き付けるのが良いでしょう。特に自分の疑問点をルーズ リーフに書き付けることは重要です。書き付けながら、図書を読み進めていくと、明確な答えや答えに類する説が記述されている場合があります。この場合は、 その文献をハーバード方式に沿って引用し、あわせて要点をまとめ、先ほどのルーズリーフに書き加えるのがお勧めです。
 勿論、疑問が解消しきれない場合、さらなる疑問や疑念も書き付けましょう。これが内的批判に通じます。執筆者の錯誤や虚偽を追求する姿勢、論証不十分な 内容を追求する姿勢、これが分析には必ず必要です。読み手である自分にとっても、「当たり前」と感じやすい分析の「前提条件」 を疑ってみること、著者の「作業仮説」を疑ってみること、論証プロセスにおける論理の飛躍を追 求すること等が有効な分析手法です。
 ただし、この場だけで止まっていては「残念!」で す。君達に是非考えてもらいたいことは、「次に何をすればこの研究はよりよい方向に進むことができるか」示すことです。就職活動において、エントリーシー トなどで「会社の将来について改善策を提案してください」「あなたはこの仕事について何を達成したいと思いますか」といった質問や課題が出されることがあ ります。レポートにおいても、常に「未来」に対する意識を持って、改善策を考えること。これが学生として極めて重要な学習ポイントなのです。
 この段に及んで有効な取材メモは、「自然科学的分析」や「統計的分析」についての内容です。この種の分析は、研究対象を客観的に捉えて、どのように表現 するか、という点において将来性の高い研究が多いのが通例です。勿論例外もあります。その場合は、そのような自然科学的分析や統計的分析のどのような点を 改善すれば、より「良い」と君達が考えるのかを示せば「将来どのようにあるべきか」といった問題について明確な立場を示すことが可能になります。いずれに せよ、「使える視点」なのです。
 ただし、注意すべき点もあります。明確な結論を示す研究は良い研究とは限らない点です。講義中に教える「史料批判」でもわかる通り、筆者が意図的に購読 者を操作し、自説が正しいと思いこませようとする図書が存在します。この場合、推論にせよ、自然科学的分析にせよ、単純化され、全ての証拠が一つの真実に 結び付くように説かれることがあります。これは、一見して判りやすいので「良い」と思われがちですが、「正しい」とは限りません。現実に忠実で、自然科学 的手法に謙虚に従う研究者程、結論はいくつもの可能性を指摘する状態に止まり、いくつもの証拠がいくつもの可能性に結び付くものになりがちです。しかし、 あえて、そのような研究も評価することが、科学的には重要なのです。
 勿論、そこから研究を進めて、他の可能性を排除し、一つの可能性を論証することも重要な取り組みです。しかし、レポートではその段階にまで行き着くこと は大変困難なことです。ですから、自然科学的分析や統計学的分析については、媒介となる条件を明確にし、どのような分析をすればより正確な真実にアプロー チすることが出来るか、提案することが重要でしょう。

構成 
 取材した内容と、まとめた意見をレポートに仕上げていくには、構成力が問われます。構成力には、自分の知識や意見を言語や図表で示す「表現 力」と、他者に理解しやすいように効果的に言語や図表を配置する「編集能力」が含まれます。
 取材メモのルーズリーフをテーブルに広げて作業開始です。このときに、重要なのは、第三者が読んで判りやすいように配置を工夫することです。その際にで きるだけ「章」を意識しましょう。
 私はこの段に及んで、はじめてワープロソフトを利用します。ワープロを起動させて入力を始める時に、まず、ワープロの設定をします。私の担当する講義の 書式は全て統一されいるので、いくつも受講する学生は、レポート製作に段々と手慣れてくるものです。A4横書き黒インクが基本ですので、ワープロの書式設 定をそのようにしておきましょう。読み手が読みやすいように、35〜45字30〜40行程度の体裁が良いでしょう。活字は9ポイント前後がお勧めで、フォ ントは日本語が全角の明朝体、英数字は半角のCenturyが基本でしょう。最近は、携帯メールの影響か、日本語のカタカナを半角で記述する学生が居ます が、お勧めではありません。英数字は、英語と数字のことです。このページは、英数字半角と日本語全角のルールで製作しているので、参考にしてください。例 えば1965が全角で1965が半角です。章や節の見出し語は、ゴチック体(あるいはゴシック体)や強調文字(太字)や1・2ポイント大きいフォントにす ると、一目で判りやすい構成にできます。
 章は適宜分けていきます。読み手が理解しやすいように、要点をまとめた章の名前を付けると良いでしょう。よく、レポートの最初に「はじめに」とか「緒 言」を書こうとして「う〜ん」と唸って、仕事ができない学生さんに出会いますが、このような文章は、一通り書いてみてから書き直すつもりで気楽に取り組む のが良いでしょう。また、自然科学系論文や近年創刊された考古学系雑誌の場合は、最初に「要旨 Abstract」 が記されるケースが多いので、全部書き終えてから文書頭の要旨に取り組むのが良いでしょう。
 さらに、レポートには必ず自作あるいはアレンジした図や写真、表やグラフを掲載するように心懸けましょう。これは、実は強烈な自己アピールにつながりま す。自分が取材したメモが、他人に理解しやすい図表に変化していくことは、非常に楽しい経験です。このような過程が大好きで研究者になっている大学の先生 も実は多いのですよ。
 章の中の文章に行き詰まったら、是非友人を捕まえてレポートを読んでもらいましょう。読みにくい表現、意味不明の内容を指摘してもらい、それを口頭で直 してみる。さらに、友人にアドバイスをもらって書き直す・・・。このような過程は、君達の「構成力」を飛躍的に伸ばしていきます。是非億劫(おっくう)が らずにやってみてください。「構成力」の究極の目的は、「他者に判りやすくプレゼンテーションをする」と言うことです。この実現の為の被験者が友人なわけ です。このようにしっかりとレポートの構成力を養っていけば、大学3年生になる頃には、もう誰かに読んでもらわなくても、君達には十分な構成力が発揮でき るようになっている筈です。

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