環境考古学とは
 日本ではあたらしい研究課題ですが、人類にとって非常に重要なテーマを考える学問で す。理系の分析技術と文系的な歴史学のセンスが融合される研究分野です。

21世紀型考古学として

 環境考古学は、21世紀型の学問だ と、つくづく感じています。それは、科学研究や歴史研究が環境問題に対して建設的かつ調和的提言を与えるようになってきた近年の社会的状況が、我々の研究 分野からの発言を求めるようになってきたからです。この分野の研究の重要性が意識され、研究が進んだのは20世紀中頃以降の欧米で、現 代的な新しい考古学を求める研究者にもその問題意識が受け継がれ、研究や遺跡保護思想へ研究成果が活かされていきました。欧米での遺跡保護は、景観を広く 保存し、野外展示と結びつく傾向が見られるのに対して、日本の遺跡保護では、遺跡景観が軽視され、宇宙船のような展示館が建てられてしまうことも、このよ うな研究の進み方の違いが背景にあるのかもしれませんね。イギリスの有名なストーンヘンジに隣接する博物館や生活に必需な道や電線は、地下に埋め込まれて います。ストーンヘンジを見るために地上に上った我々は、青銅器時代の人々が眺めた景観に近い景観を目の当たりにすることが出来る訳です。
 この研究室を担当する富岡が考古学を学び始めた1980年代には、環境考古学を学ぶことは「王道からはずれることだから、将来の考古学の職はないぞ」と 忠告する先輩が居た程です。別の先輩が「楽しいことをやるのが一番だろ?」と、言ってくれなかったら、考古学が好きな富岡は、この研究の道をあきらめてい たかもしれません。そして、20年後、この研究室には文系・理系に関わらず環境考古学や食文化の研究を希望する学生・大学院生さん訪れますし、各地の考古 学研究者のみならず、動物・植物・環境を研究する研究者達、マスコミの方々がワイワイと訪ねて来てくれます。
 環境考古学は、極めて多岐にわたる内容を持っていることから、例え一つの遺跡を分析するにもたくさんの専門的研究者達の結集が欠かせません。ですから、 私どもの研究室のように、にたくさんの人が集い、議論や相談をすることが極めて重要です。

環境考古学の意義
 さて、ここであらためてこの学問の用語を説明しましょう。まず、考古学 Archaeology。人間の過去を物証 Material に基づいて復元する学問が考古学で、日本には19世紀に欧米での研究方法が移入され、日本ナイズされた研究体系が育てられていきました。
 環境考古学 Envieonmental Archaeology  は、人間が「自然環境 Natural Environment 」をどのように利用し、「社会的環境Social Enveironment 」を築いてきたのかを探る学問であり、考古科学 Archaeological Science の欠かすことのできない一分野となっています。現在日本で発刊される多くの遺跡調査報告書に、この分野の分析結果報告が添付されるようになっていること が、 その重要性を端的に示しているといえるでしょう。
 海外では、環境考古学者が「自然保護と環境保護の新しい道を探し出すことを助ける関心を持たねばならない」(シャクリー著、加藤訳 1985)と主張す る研究者もいます。
 我々が住んでいる完新世 Holocene の地球の環境が、現代の我々が納得できる程度に科学的に記録されるようになったのは13世紀以降のことです。しかし、環境を大規模に改変する「自然破 壊」は新石器時代(日本では縄文時代前期以降)より青銅器時代(日本では弥生時代)にかけて世界各地でみられ、我々が手にできる文献資料では、破壊前の完 新世の様子を知ることはできません。
  このため、我々は埋もれたり風化した先史・古代の環境の痕跡から、我々の住む完新世の無垢な状態を探り、本来あるべき姿を探り未来に活かす手助けをしてい かねばならないのです。このため様々な叡智が集められる分野が環境考古学なのです。

動物考古学について
 環境考古学の一分野である動物考古学 Zooarchaeology について、お話を続けましょう。この学問は、動物と人間の関わりを多角的に追求する学問です。この学問の要素となる「動物」と「人 類」は生物として「環境」に依存し、「環境」に働きかけながら生活を営んでいます。このことから動物考古学は環境考古学の一分野として位置づけられます。
 ここでよくある間違いについてお話します。「環境考古学」は「古生物学」と間違われる場合があります。これは最もなことで、20世紀の初頭から中頃まで は、理系の「古生物学」者がこの「動物考古学」の研究をたくさん発表なさっていました。現在も、このような研究者の方もいらっしゃいます。研究者が同じ人 なのですから、研究内容が似ているのも当然です。簡単な見分け方は、「動物考古学」は人間が地球上に現れてから後の時代の研究をすることであり、「ヒト」 と「動物」の関わりを考察することに対し、「古生物学」は、時代的にも、研究課題でもより自由な内容を持つわけです。
 さて、日本語をよく理解するある外国人研究者は、日本人が持つことの多い「動物考古学」という言葉のニュアンスには、違和感があると教えてくれたことが あります。彼が言うには、欧米での「動物考古学」は、決して「動物+考古学 animal+archaeology」ではなく、「動物学+考古学 zoology+archaeology」なのだそうです。確かに英語でのニュアンスが日本語では表しにくい場合は、学問の世界で多いのですが、「動物考 古学」 も「しかり」といった所なのでしょう。はじめてこの話を説かれた時、動物考古学の学問としての特性をあらためて思い知らされました。
 岡山理科大学では、動物学・植物学・生物学といった理系科目の講義も開講されており、これらを体系的に学ぶことが可能です。文理の融合した学際的な分野 への応用力を培うことが出来る学科として注目される所です。
 
環境考古学研究室: 岡山理科大学総合情報学部 生物地球システム学科 富岡研究室

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