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 繭
 アオムシコマユバチの繭は数十個が集まった塊になっている。これはアオムシから脱出した数十の幼虫がほぼその場で営繭するからだが、多寄生蜂の種類により繭の集合度は様々である。
ブランココマユバチ繭塊 アオムシコマユバチ繭塊 カリヤコマユバチ繭塊
 ブランココマユバチの繭塊: 粗く散らばる  アオムシコマユバチの繭塊: 塊になる  カリヤコマユバチの繭塊: 一個の玉になる

 繭の役割は中にいるハチの保護である。これには物理的な障壁としての役割もあるが、生理的な保護の意味合いも大きい。アオムシコマユバチでは、蛹自身の表皮が非常に薄いので、特に乾燥から身を守る繭の役割は重要である。繭から出されたハチは乾いて死にやすくなり、日当たりが良いところでは全て死亡する。

 Tagawa (1996) Function of the cocoon of the parasitoid wasp, Cotesia glomerata L. (Hymenoptera: Braconidae): Protection against desiccation. Appl. Entomol. Zool. 31: 99-103

 良い繭を紡ぐことはハチにとって重要であるが、営繭時の湿度によって繭の状態が大きく変化する。アオムシコマユバチは、高湿度になると綺麗な俵状の繭を紡ぐのは難しく、多くの繭がむらの多いものとなる。中には全く繭を紡げないものも出る。繭塊も広がって崩れ、一つの纏まった塊にはなれない。こういう繭だと乾燥に対する保護は極めて不十分だし、アリ等の外敵にもやられ易い。

 Tagawa & Satoh (2008) Effects of relative humidity on cocoon formation and survival in the braconid wasp Cotesia glomerata. Physiol. Entomol. 33: 257-263

 ただ、全ての寄生蜂が繭を紡ぐのではない。寄主の体内で蛹化する寄生蜂は自らの保護を寄主の外殻に任せている。

 多寄生蜂では繭が集まって塊を作るが、その繭塊の形状は上に示す如く様々である。この繭塊形状が蜂の大きさに関係しているらしい。体が小さければ小さいほど体を保護する繭への絹糸投資量は相対的に大きくなる筈だが、実際に調べてみると違う。小さな蜂の絹糸への投資率は大きな蜂の絹糸投資率より小さいのである。小さい蜂は絹糸節約のために密集した繭塊を作るらしい。大きな蜂と同じ様にバラバラの繭を作れば、殆ど繭に投資する羽目に陥り、蜂本体への投資量が非常に少なくなってしまうからだと考えられる。そもそも、非常に小さな蜂は繭を紡がず、上述の様に自らの保護を寄主の外殻に任せている。そうせざるを得ないのだろう。

 Tagawa & Sato (2009) Investment in cocoon-silk and structure of the clusters of cocoons produced by gregarious microgastrine wasps (Hymenoptera: Braconidae). Eur. J. Entomol. 106: 353-356


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