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   −寄生蜂の行動、生理、生態−
  by Wasp
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寄生蜂とは何か
 ・寄生蜂の分類
アオムシコマユバチ
 ・性フェロモン
 ・コマユバチの繭


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 母蜂は犠牲者となる寄主をどう選んでいるのか、産卵数はどれくらいなのか、オスとメスの割合をどの様に決めているのか、また寄主は寄生蜂に如何に対処するのか等、寄生蜂と寄主の間には様々な問題が存在する。
アオムシコマユバチの産卵 幼虫の脱出 繭塊とアオムシ

 上の写真は、寄主であるモンシロチョウの若齢幼虫に産卵するアオムシコマユバチの様子と、アオムシから脱出するコマユバチの幼虫。脱出した幼虫はその場で直ちに繭を紡いで中におさまり、数十の小さな黄色い繭からなる塊がキャベツ葉に付着する。


 食草−虫
 アオムシ(モンシロチョウ)はアブラナ科植物を食べて育つ。キャベツ、カリフラワー、ブロッコリー、ハクサイ、ダイコンなどの蔬菜・根菜類や、イヌガラシ、タネツケバナなどが食草である。ただ、イヌガラシなどは一株がアオムシ一匹を育てられるかどうかの小ささであり、現在の日本ではモンシロチョウの主な食草はキャベツである。
 アブラナ科植物にはアオムシ以外の虫も多く付く。ヨトウムシ(ヨトウガ)、コナガ幼虫などが主なものだ。黒いカブラハバチ幼虫が付くこともある。

キャベツ畑 ダイコン畑
キャベツ畑      ダイコン畑

・ヨトウガは何十もの卵を一塊にして葉に産み付ける。孵った幼虫は葉の薄皮を残す様な食べ方をするので、アオムシの食い跡と随分違って汚なく感じられる。孵化して直ぐの幼虫は集合して食害する。
・コナガ幼虫は小さな紡錘形である。親はバラバラに卵を産む。小さいので一匹が食べる量は多くない。蛹は網目状の小さな繭に入る。
 これらの虫はアブラナ科植物なら何でも食べる。アオムシはキャベツが好きで、ダイコン畑とキャベツ畑があれば、ダイコンの方にはあまり付かない。どの虫にも寄生蜂は付くが、ヨトウムシの寄生蜂はあまり多くないようだ。コナガとアオムシには、それぞれ別種のコマユバチ、その他が寄生する。寄生蜂はどこにでもいるが、寄主のアオムシを徹底的に駆除してしまうと中に居る蜂も駆除されてしまうので数が少なくなる。寄生蜂以外の天敵、アシナガバチなどはアオムシを狩って肉団子にする。


 植物−食害昆虫−寄生蜂
 植物が食害されると特有の匂い物質ができることはよく知られている。この時、この匂い物質がただ単に出来てしまうだけなのか、それとも植物が積極的に作っているのかで意味合いは大きく異なる。最近では、後者の例が多いと考えられている。植物が、自らを食害する昆虫に対抗するため、特有の匂い物質を生産して食害昆虫の天敵を呼び寄せている(敵の敵は味方)という解釈である。

 タバコ、ワタ、トウモロコシなどの有用植物を食害する昆虫とその寄生蜂の関係を調べた研究(Moraes et al. (1998) Herbivore-infested plants selectively attract parasitoids. Nature, 393:570-573)によると、同じ植物であっても、葉の生産する匂い物質(その割合)は食害昆虫が違えば異なる。寄生蜂はその違いを識別し、本来の寄主に食害された植物に強く誘引される。
 植物は、食害相手を識別して選択的に寄生蜂を呼び寄せているらしい。
 アオムシコマユバチの場合は、ステアリン酸を主とする高級脂肪酸が雌の寄主探索行動を引き起こす事が分かっている(Horikoshi et al. (1997) Cotesia glomerata female wasps use fatty acids from plant-herbivore complex in host searching. J. Chem. Ecol., 23(6): 1505-1515)。ただし、寄生されるとアオムシの総摂食量が増えるので、果たして寄生蜂の来訪が植物にとって良い事かどうか。本来の食草や次世代も含めて考える必要がある。

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