福澤諭吉
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頭書大全 世界國盡 南亞米利加洲 大洋州 五
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ミなみあめりかしう
「ぱなま」のちきやう にじう
より「たいへいかい」と「あた
らかい」さゆうにわかる
やまのミやく ふねのかよひの たより
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なく ミなみのはしの ミさきまて
まはれハ いちせんくひやくよ
り りくニふもうのあきち
なく さうもくしける いちたい
しう しうにつらなる くに/\を
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きたのかたより かそふれ
は きやうわせいふの「ころん
びや」ミなミとなりの「せき
だうこく」せきたうちよくかの くに
なれと やまさかたかき
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かうやのち ちのりを
もつて てんにかち なつ
あつからす さむからす
しじかはらぬ はるのの
に たねまくときも
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かるときも のうのじせつ
ニ ちそくなし ひがしのかた
に「べねじゆうら」くにの
ふうぞく まつりごと ちりさん
せんの もやうまて となりの
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くにに ことならす またも
ひかしの「こいやな」ハ なん
ぼくおよそ しちじうり とうざいにひやく
ろくじうり とちのひろさ
を ミつにわけ「らん」「ふつ」
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「えい」のさんがこく おの/\たもつ
そのいちぶ にしのせかい
の ものをもて ひがしのとみ
をたすくとそ ひとの
たすけをかうふらす ふきどく
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りつの「ぶらしり」ハ じんこう
しちひやくしちじうまん「あめり
かしう」の なんはうニ ひるいすくな
き いちていこく とちのひろさ
に くらぶれバ じんこういま
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た おほからす ミやまの
くさき おひしげり きんじう
ひとに せまれとも しだいニ
すゝむ よのかいくわ もんじ
のおしへ りうかうし すえたの
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もしき ふうぞくを とほく
したふて きよをうつし あつまる
ひとそ おひたゝし ひかしミなみの
くに/゛\は「ぼりびや」「ぱら
がい」「うりうがい」「らぷた
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た」こえて「ぱたご
にや」とちのふうぞく にん
じやうも あらましおなし きやうわ
せい みなみのせとの
「まぜらん」を わたりあがりて
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「ひのくに」ハ「あめりかしう」
の「きぼうほう」にしにまは
れハ「ちりのくに」あんで
すさん」の ふもとにて なんぼく
はちひやくさんじうり とうさいわづか
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いつひやくり てんきじこうの
よろしきは せかいに
ひるいおほからす せきだう
いなんの とちなれハ しゆん
かしうとう ことなりて わが
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ろくぐわつハ かれのふゆ かれの
ゑんしよハ われのふゆ かん
しよのじゆんハ もとれとも
しじたゝ゛しく おこなはれ
ひやくぶつなりて ゆたかなる くに
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のじんこう にひやくまん しよしう
くわいぎの きやうわせい たみの
きやういく おこたらす しよはう
にたつる がくもんしよ けい
このにんず さんまんにん にわか
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にすすむ ぶんめいは くにの
ふきやうニともなひて このゆく
すえの さいはひを きし
てまつこそ たのしけれ
「あんですざん」のふもとより
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きたにすゝめハ「ぺい
りゆうこく」じんこう にひやくしじうまん
とちにしやうする さんぶつ
ハ ごこくきんぎん わたさとう
しまニつもりし とりのふん べつ
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にたつとき めいひんは ぺい
りゆうこくの きなのかわ かわ
よりせいす きなえんは
てんかむるいの げねつざい
ねつニなやミし びやうにんは き
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なえんもちひ くるしミを わす
れしことも おほから
ん たとひびやうくハ わす
るとも わするゝなかれ
ちりのがく ものにした
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かひ ことにつき おもひ
だすこそ がくのミち まな
ひしミちを わすれし
と ふたゝひここに くりかへ
す せかいぢうの くにづくし
---------------
「あじあ」「あふりか」「えう
ろつぱ」「あめりかしう」
のきたミなみ ついでをおひし
ごだいしう そのものかたり
あらましも まなひてときに なら
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ひなハ ゐなからしら
ん よのめいしよ めいしよきう
せき もらさしと ふるきを
たづね あたらしく はつめい
したる しま/゛\を あつめて
---------------
ここに
 たいやうしう
たいへいかいの しま/゛\ハ いく
ひやくせんの かずしらす あ
じあしうの なんぱうに
---------------
かいがんちかく むらがるは
「すまたら」「ぼるね
を」「じやわ」「せれべす」
「るそん」「すぱいす」「しんぎん
な」「せいやうしよこく しはいの
---------------
ち せきだうちかき だんたい
に しやうしてあまる さん
ふつを とほくたつさへ
ほんごくの いしよくに そな
へ とみをたし ふこく
---------------
りようの けいざいは ばんり
のなミも おそれなく ち
りのがくもん かうかいの じゆつ
をミかきし ぶんめいの
ゆうとちしきの こうなら
---------------
ん ミなみにひろき いち
せかい むかしこのちを
ミいだせし おらんだじんの
ほまれにて「しんおらんだ」
と なづけしか いまハその
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なもあらたまり「い
ぎりすりやう」の「あふすたらりや」
とうざいせんり なんぼくの ひろ
きところは はちひやくり
じんこういちひやく しじうまん ひろ
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きないちの ありさまを さ
くりしひとも まれな
れと ものをしやうする とち
おほく しんはつめいの かね
のやま ごたいしうに ひるい
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なき「かりほるにや」の
ミぎにいて としニつみだ
す わうごんハ いくせんまんの
かぎりなし あまるをいだし た
らさるを いるゝミなとハ「め
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るぼろん」「しどに」のいち
の かうえきも ひゝ゛ににぎあふ
いしよくじう みなミのうミ
の しんせかい さかふるときそ
ちかからん ミなみのかたに
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「たすめにや」ひがしに
はなれ「ぢいらんど」ミな
「いぎりす」の しはいう
け じんこうおの/\ じうよまん
てんきじこうも ちうわ
---------------
をえ「しんぢいらんど」は
「いぎりす」の うらにあたり
て ほんごくと むかひあはす
る あしのうら ちうやのじ
こく さかしまに「えい」のやはん
---------------
は こゝのひる こにく
るゝれハ かれにあ
け「いぎりすわう」の りやう
ぶんに ひのぼつしたる とき
そなし「しんぢいらん
---------------
と」の きたひがし すせんのしま
を とほりこし せきだう
こえて きたのかた「さんどいつ
ち」の しま/゛\ハ じんこうわづか しちまん
にん とちはせまくも どくりつ
---------------
こく「たいへいかい」の ほくぱうニ
ひとりはなれし ちりを
しめ げいれうせんの より
どころ「わうふうじま」の「はなるゝ」
ハ しまにひとつの こうえきバ「えい」
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「あ」しよこくの ふねもいり い
るといづるの しやうばいに
とちもしだいに にきはひ
けり
せかいくにつくし おはり

福澤諭吉
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頭書大全 世界國盡 南亞米利加洲 大洋州 五
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南亞米利加洲
「巴奈馬」の地狹二十
餘里「太平海」と「阿多
羅海」左右に分かる
山の脈船の通の便
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なく南のはしの岬まて
まはれハ一千九百餘
里陸ニ不毛の空地
なく草木しける一大
洲々に列なる國々を
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北の方よりかそふれ
は共和政府の「古論
備屋」南となりの「赤
道國」赤道眞下の國
なれと山阪高かき
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高野の地々の理を
以て天に勝ち夏
熱からす寒からす
四時かはらぬ春の野
に種蒔くときも
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刈るときも農の時節
ニ遲速なし東の方
に「部根重良」國の
風俗政事地理山
川の模樣まて隣の
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國に異ならす又も
ひかしの「五井梁」ハ南
北凡七十里東西二百
六十里土地の廣裏
を三に分け「蘭」「佛」
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「英」の三箇國各有つ
その一部西の世界
の物をもて東の富
をたすくとそ人の
助を被らす不羈獨
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立の「武良尻」ハ人口
七百七十萬「亞米利
加洲」の南方ニ比類少
き一帝國土地のひろさ
に較れバ人口いま
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たおほからす深山の
草木長茂り禽獸
人に迫れとも次弟ニ
進む世の開化文字
の敎流行し末賴
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母しき風俗を遠く
慕て居を移し集る
人そ夥し東南の
國々は「保里備屋」「巴羅
貝」「宇柳貝」「良富羅
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多」越えて「巴多呉
仁屋」土地の風俗人
情も大略同し共和
政みなみの瀨戸の
「麻瀨蘭」を渡上りて
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「火の國」ハ「亞米利加洲」
の「喜望峰」西に廻
れハ「池鯉の國」安天
須山」の麓にて南北
八百三十里東西僅
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一百里天氣時侯の
よろしきは世界に
比類多からす赤道
以南の土地なれハ春
夏秋冬異なりて我
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六月ハ彼の冬彼の
炎暑ハ我の冬寒
暑の順ハ戻れとも
四時正しくおこなはれ
百物成て豐なる國
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の人口二百萬諸州
會議の共和政民の
敎育おこたらす諸方
に建る學問所稽
古の人數三萬人俄
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にすすむ文明は國の
富強ニ伴てこの行
末の幸福を期し
てまつこそたのしけれ
「安天須山」のふもとより
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きたに進めハ「平
柳國」人口二百四十萬
土地に生する産物
ハ五穀金銀綿砂糖
嶋ニ積りし鳥の糞別
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に貴き名品は平
柳國の幾那の皮々
より製す幾那鹽は
天下無類の解熱劑
熱ニ惱ミし病人は幾
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那鹽もちひ苦を忘
れしこともおほから
ん假令病苦ハ忘
るともわするゝ勿かれ
地理の學物に從
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かひ事につき思ひ
出すこそ學の道學
ひし道をわすれし
と再ひここに繰返
す世界中の國盡
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「亞細亞」「阿非利加」「歐
羅巴」「亞米利加洲」
の北南序を逐ひし
五大洲その物かたり
大略も學て時に習
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ひなハ居なから知ら
ん世の名所々々舊
跡洩らさしと古を
温ね新しく發明
したる島々を集て
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ここに
 大洋洲
太平海の嶋々ハ幾
百千の數知らす亞
細亞洲の南方に
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海岸ちかく群るは
「須磨多羅」「保留根
尾」「爪哇」「瀨禮部須」
「呂宋」「須拜洲」「新銀
名」「西洋諸國支配の
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地赤道ちかき暖帶
に生して餘る産
物を遠くたつさへ
本國の衣食に供
へ富を足し富國
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利用の經濟は萬里
の浪もおそれなく地
理の學問航海の術
を研かきし文明の
勇と智識の功なら
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ん南にひろき一
世界昔日この地を
見出せし和蘭人の
ほまれにて「新和蘭」
と名けしか今ハ其
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名もあらたまり「英
吉利領」の「澳大利亞」
東西千里南北の廣
きところは八百里
人口一百四十萬廣
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き内地の有樣をさ
くりし人も稀な
れと物を生する土地
多く新發明の金
の山五大洲に比類
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なき「雁保留仁屋」の
右に出て年ニ積出
す黄金ハ幾千萬の
限なし餘るを出し足
らさるを入るゝ港ハ「女
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留保論」「志戸仁」の市
の交易も日に賑ふ
衣食住みなミの海
の新世界榮る時そ
近からん南の方に
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「多壽女仁屋」東に
はなれ「地伊蘭土」皆
「英吉利」の支配受
け人口各十餘萬
天氣時侯も中和
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を得「新地伊蘭土」は
「英吉利」の裏に當
て本國とむかひ合す
る足の蹠晝夜の時
刻倒に「英」の夜半
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は此地の晝こにく
るゝれハ彼地に明
け「英吉利王」の領
分に日の沒したる時
そなし「新地伊蘭
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土」の北東數千の嶋
を通り越し赤道
越えて北の方「山土逸
地」の嶋々ハ人口僅七萬
人土地は狹くも獨立
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國「太平海」の北方ニ
獨はなれし地理を
占め鯨獵船の寄
處「王風嶋」の「花瑠々」
ハ嶋に一の交易場「英」
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「亞」諸國の船も入りい
ると出るの商賣に
土地も次弟に賑ひ
けり
世界國盡終