福澤諭吉 ============================== 頭書大全 世界國盡 北亞米利加洲 四 ------------------------------ きたあめりかしう 「あめりか」は にしにはなれて しんせかい ひさごのさまニ よこたはり きたハ「ばら を」のミさきより ミなミのせ --------------- との「まぜらん」へ なが さ しせんにひやくより きたと みなミのにたいしう ちり のつゞきハ「ぱなま」なる ちきやうのわたり にじうより --------------- ひがしのかたは「あたら かい」にしにまはれハ たいへい かい」うミのにしなる にほん より「きたあめりか」へ と かいして「かりほるにや」 --------------- のミなとまて とうざいにせん ごひやくより せかいむに のたいやうなり きたに まはれハ「ろしやりやう」 「きたあめりか」の にしのすミ --------------- しはいのとちは ひろけ れと じんミんわづか ごろくまん かんききびしく とちやせ て ひとのかせぎハ ぎよりやうのみ ひがしのかたへ はなれたる --------------- 「ぐりいんらんど」いす らんど」そのほんごくハ「でんまるく」 ほくきよくちかき かんたい の かんきニつもる せんしうの ゆきやこほりの あひだより けぶり --------------- ふきだす ふんくわざん げに めづらしき けしきなり 「いぎりす」りやうの あめり かハ ほくきよくかいの ほとりより ミなみにとなる「がふしゆこく」 --------------- 「きたあめりかを ミつに して そのいちぶんの とち なれと きたはふもふの あれのにて じんミんわづか じう はちまん ところさためし いへ --------------- もなく むちもんもふの や ミんのミ ミなミひがしは「かなだ」 のち きこうしだいに やわら きて じんミんおほく はんじやう し みなミさかひの こすい --------------- より ながるゝかわハ「ろうれん す」かわのほとりの「きべつく」 に きつきたてたる ほうだいは きんじやうたうちの かまへに て よのことわざニ「あめりか」 --------------- の「しぶらるたる」と となへけり かわのなかれを さかのぼり「もんとりいる」は かわ なかの しまにひらきし かうえきバ にしにのぼりて --------------- 「をたはがわ」かわのみなミに 「をたはふは「いぎりす こく」の だいくわんしよ きたハほく きよく さいはうハ「たいへいかい」の ミ きハより ひかしのかたハ あ --------------- たらかい」「しんミのくに」 のはてまても ひとてに にぎる さうぶぎやう「きたあめ りか」に「いぎりす」の いせいをふるふ こんぽん --------------- ハ「かなだ」ちはうの しよりやう なり ふてんのしたニ とちひろ く そつとのひんニ たミおほ し おくのミならぬ せい --------------- れいの ひんぷきやうじやく けんふせう そのおもむきハ こと なれと じもくびこう しゝのくわん ぜひきよくちよく を ふんべつし ぜんにしたがふ --------------- ほんしんと まなびてすゝむ さい のふは いつしゆむるい ばんぶつ の れいにそなハる てんのせい せんこふえきの いちたいぎ こゝろをろうし ミを --------------- えきし たにんのねつを か らされハ ひとへもかさ し わがじゆう てんのだうり ニ もとづきて くににむくゆる たんしんの まことにいてし いつこく --------------- の ふきどくりつの いきほひは とめんとすれと とゞまらす 「きたあめりか」の じうさんしう そのほんごくの せいふより ゐくわうをもつて めいし --------------- たる なもなきミつぎ いたさしと つけんと するに たよりなく たみにそなふ る てんねんの じゆうのしゆい も ひゞ／＼に ちゞまることそ --------------- いこんなる いこんニい こん かさなりて たのむ ところハ てんちのり ころは あんえいこねんのあき じう さんしうの めうだいにん しじうはちし --------------- の れんばんぢやう せかいへしめ す げきぶんに「いぎりす の つミをせめ ミづから たてし がうしゆこく ぶ きひやうらうも とぼしきたみ --------------- すまんのてきは うミをこ え あらてひきかへ せめ きたる もうこひりやうの いきほひに おそれたゆまぬ てつせきの こゝろにちかふ --------------- くにのため うしなふいのち うるじゆう せいりくつし て いきんより くにニむくゆ る しをとらん いつしけつ して しちねんの ながのつきひ --------------- の せめまもり ちゆうぎのな を せんざいに なかすち のかわ ほねのやま しちじうにせん の かんなんも きえてわする ゝ たいしやうり めでたく こゝ --------------- に「いぎりす」と わぼくむす ひし しんでうやく やくそくかた き まつりごと せいたいありて しゆくん なく てんかはてんかのてん かなり よねんかはりの --------------- だいとうりやう じやういんかいんの ひやう ぎやく いつこくちうの べんふ べん はかりさだめし はうりつ の いハおこなはれ たけからす しだいニすゝむ くにのとミ ひやく --------------- こうせいさく しやうばいは「いぎ りすこく」と かたならへ ぶんきよう ぎげい がくかうは「ふらんす こく」の ミぎにいて とちより いつる さんもつハ ごこくじうるい --------------- わたたばこ ぶどうくだもの さとうきび きんぎんどうゑん てつせき たん およそせけんの にちように ひやく ぶついつも ふそくなし い しよくをおふひとの じやうもと --------------- め えやすきくわつけいを たつぬるひとハ しはうより ひゞにあつまり つきニまし じんこうさんぜんゆうよまん しん ちかいほつ おこたらす --------------- やうやくひらく くにさかひ とう さい いつせんさんびやくり きたとミなみ に しちひやくり じうさんしう の ほんりやうも いまハそのかず さん ばいし さんじうろくしう ならひ --------------- たつ そのちうしんは「わ しんとん」ふないにひらく せいしどう たかさにひやくはち じうしやく ごもんろうかく ぎ ぎとして けつかうのこる --------------- ところなし にしのせかい ニどくりつし ゐをととろ かす たいこくの ぎせいゐ せいの もとなれハ そのかう だいも どうりなり「わしん --------------- とん」より きたのかた ひやくり へたてて「にうよるく」じん こうおよそ いつひやくまん こくちういち の かうえきば そのはんじやう ハ「いぎりす」の「ろんどんふ」 --------------- にも ほうふつたり にしに まはりて かいがんの「かり ほるにや」ハ きんのさと か えいさんねん ことはじめ はしめ てしうを たてしより --------------- じんこにわかに はんしよくし たみのかせぎは きんざんの きやうのミならす まきた はた もゝのしよくげふ いそがしく たいへい --------------- かいのかいがんに ひとり はんくわを ほこるとそ 「めきしこ」の きたのさかひハ がうしゆこく ミなみひがしへ よこた はり「めきしこわん」ニ --------------- さしのそミ「ちうあめり か」にさかひして なんぼく およそはちひやくり とうざいさんひやく さんじうり じんこうハちひやくさんじうまん とちにしやうする さん --------------- ぶつは いしよくのように ふそくなし もちひてあ まる きんとぎん せかいちう ニ つミミいたし ふこくり ようの ミなもとハ くめともつき --------------- ぬ ふちなれと せいふの もとひ かたからす たミのしん かうあさくして しはゝ かはる まつりごと うきつしづミつ くにのらん たミのかいくわ --------------- にいとまなし 「めきしこ」の みなミに つゝく すかこくハ ちうあ めりかの ちをしめて かつ きよじりうの ていなれと --------------- さけてたがひに わかるれば おの／＼まもる ちからなく ひが どうりよくを やくそくし あへ はたかひに いつちせ す ただとき／＼の いきほひに なが --------------- れしたがひ ゆくすへの ちらん のほどそ はかられす「ちう あめりか」の とうはうに むらがるしまハ「せいいんど」いん どニゆかり なきしまを --------------- にしのいんどと なつけし ハ むかしめいをふ しよねんのころ よになもたかき「ころん ぶす」にしのせかいを さぐ るとき はじめてミえし --------------- 「さるわどる」「あめりか」 だにも いまたミず 「たいへいかい」のあらんとは ゆめにもしらす このしま を「いんど」のはしと したゝめ --------------- て ひとにつけたる ゆらい こそ にしのいんどの な のはしめ ここんミそ うの だいはつめい ひとのほまれ と しまのなと ともにつたふ --------------- る せんまんざい ちしまのかず の おほきなか せけんの ミゝニ なれしなは 「はいち」「じやまいか」「きゆ バ」「ばはま」じかうハあつく --------------- ふゆしらす とちのさんぶつ ゆたかにて いしよくたらさる ものハなし さとうこつ ひい わたたばこ「はいち」ニおほ き ばせうのミ「きゆば」 --------------- にせいする まきたばこ「は わな」のめいの はこいりは せかいむるいの めいひんな り | 福澤諭吉 ============================== 頭書大全 世界國盡 北亞米利加洲 四 ------------------------------ 北亞米利加洲 「亞米利加」は西に離れて 新世界瓢子の状ニ 橫たはり北ハ「馬良 尾」の岬より南の瀨 --------------- 戸の「麻瀨蘭」へ長 さ四千二百餘里北と みなミの二大洲地理 の續ハ「巴奈馬」なる 地狹の亘二十餘里 --------------- 東のかたは「阿多羅 海」にしに廻れハ太平 海」々の西なる日本 より「北亞米利加」へ渡 海して「雁保留仁屋」 --------------- の港まて東西二千 五百餘里世界無二 の大洋なり北に まはれハ「魯西亞領」 「北亞米利加」の西の隅 --------------- 支配の土地は廣け れと人民僅五六萬 寒氣嚴しく土地痩 て人の稼ハ漁獵のみ 東の方へ離れたる --------------- 「具理陰蘭土」伊須 蘭土」その本國ハ「嗹國」 北極ちかき寒帶 の寒氣ニ積る千秋の 雪や氷の閒より煙 --------------- 吹出す噴火山實に 珍しき景色なり 「英吉利」領の亞米利 加ハ北極海の邊より 南に隣る「合衆國」 --------------- 「北亞米利加を三に して其一分の土地 なれと北は不毛の 荒野にて人民僅十 八萬處さためし家 --------------- もなく無知文盲の野 民のミ南東は「金田」 の地氣侯次第に和ら きて人民多く繁昌 しみなミ境の湖水 --------------- より流るゝ河ハ「老連 洲」河の畔の「喜別久」 に築建たる砲臺は 金城湯池のかまへに て世の諺ニ「亞米利加」 --------------- の「治部良留多留」と となへけり河の流を 溯り「門土里留」は河 中の嶋に開きし 交易場西に上りて --------------- 「小田羽河」々のみなミに 「小田羽府は「英吉利 國」の代官所北ハ北 極西方ハ「太平海」の水 濱よりひかしの方ハ阿 --------------- 多羅海」「新見の國」 の果まても一手に 握る總奉行「北亞米 利加」に「英吉利」の 威勢を振ふ根本 --------------- ハ「金田」地方の所領 なり 普天の下ニ土地廣 く卒土の濱ニ民多 し億のミならぬ生 --------------- 靈の貧富強弱 賢不肖その趣ハ異 なれと耳目鼻口 四枝の官是非曲直 を分別し善に從ふ --------------- 本心と學てすゝむ才 能は一種無類萬物 の靈に具る天の性 千古不易の一大義 こゝろを勞し身を --------------- 役し他人の熱を假 らされハひとへも貸さ し我自由天の道理 ニ基て國に報ゆる 丹心の誠にいてし一國 --------------- の不羈獨立の勢は 留んとすれと止らす 「北亞米利加」の十三州 その本國の政府より 威光を以て命し --------------- たる名もなき貢税 いたさしと告けんと するに便なく民に備 る天然の自由の趣意 も日々に蹙ることそ --------------- 遺恨なる遺恨ニ遺 恨かさなりて賴む 所ハ天地の理頃は 安永五年の秋十 三州の名代人四十八士 --------------- の連判状世界へ示 す檄文に「英吉利王 の罪を責め自から 建てし合衆國武 器兵糧も乏しき民 --------------- 數萬の敵は海を越 え新手引替へせめ 來る猛虎飛龍の 勢におそれ撓まぬ 鐵石のこゝろに誓ふ --------------- 國のため失ふ生命 得る自由正理屈し て生きんより國ニ報 る死を取らん一死決 して七年の長の月日 --------------- の攻守智勇義の名 を千歳に流かす血 の河骨の山七十二戰 の艱難も消て忘る ゝ大勝利目出度こゝ --------------- に「英吉利」と和睦結 ひし新條約々束固 き政々體ありて主君 なく天下は天下の天 下なり四年交代の --------------- 大統領上院下院の評 議役一國中の便不 便議り定めし法律 の威ハ行はれ猛からす 次弟ニ進む國の富百 --------------- 工製作商賣は「英吉 利國」と肩竝らへ文敎 技藝學校は「佛蘭西 國」の右にいて土地より いつる産物ハ五穀獸類 --------------- 綿煙草葡萄果實 甘蔗金銀銅鉛鐵石 炭凡世閒の日用に百 物一も不足なし衣 食を逐ふ人の情求 --------------- め得易き活計を たつぬる人ハ四方より 日に集り月ニ增し 人口三千有餘萬新 地開發おこたらす --------------- 漸くひらく國堺東 西一千三百里北と南 に七百里十三州 の本領も今ハその數三 倍し三十六州竝ひ --------------- 立つその中心は「和 新頓」府内に開く 政事堂高さ二百八 十尺衙門樓閣巍 々として結構のこる --------------- ところなし西の世界 ニ獨立し威をととろ かす大國の議政爲 政の源なれハその洪 大も道理なり「和新 --------------- 頓」より北の方百里 へたてて「入世留久」人 口凡一百萬國中一 の交易場其繁昌 ハ「英吉利」の「論頓府」 --------------- にも彷彿たり西に まはりて海岸の「雁 保留仁屋」ハ金の里嘉 永三年事始はしめ て州を建てしより --------------- 人戸俄に繁殖し たみの稼は金山の 業のミならす牧田 畑百の職業 忙しく太平 --------------- 海の海岸にひとり 繁華を誇るとそ [女喜志古」の北の界ハ 合衆國南東へ橫た はり「女喜志古灣」ニ --------------- さしのそミ「中亞米利 加」に界して南北 凡八百里東西三百 三十里人口八百三十萬 土地に生する産 --------------- 物は衣食の用に 不足なし用ひてあ まる金と銀世界中 ニ積ミいたし富國利 用の源ハ汲とも渇き --------------- ぬ淵なれと政府の 基固からす民の信 仰淺くしてしはゝ かはる政浮きつ沈ミつ 國の亂民の開化 --------------- に遑なし 「女喜志古」のみなミに つゝく數箇國ハ中亞 米利加の地を占て割 據自立の體なれと --------------- 割けて互に分るれば 各守る力なく彼我 同力を約束し合へ はたかひに一致せ す唯時々の勢に流 --------------- れ從ひ行末の治亂 の程そ圖られす「中 亞米利加」の東方に 群る嶋ハ「西印度」印 度ニ所縁なき嶋を --------------- 西の印度と名けし ハ昔明應初年の頃 世に名も高き「古論 武子」西の世界を探 るとき始て見えし --------------- 「猿和土留」「亞米利加」 だにもいまた見ず 「太平海」のあらんとは 夢にも知らすこの嶋 を「印度」の端と認め --------------- て人に告けたる由來 こそ西の印度の名 のはしめ古今未曾 有の大發明人の譽 と嶋の名と共に傳 --------------- る千萬歳千嶋の數 の多き中世閒の 耳ニ慣れし名は 「拜地」「邪麻伊嘉」「久 場」「馬濱」時侯ハ熱く --------------- 冬知らす土地の産物 豐にて衣食足らさる ものハなし砂糖骨 非綿煙草「拜地」ニ多 き芭蕉の實「久場」 --------------- に製する卷煙草「葉 羽奈」の銘の箱入は 世界無類の名品な り |