福澤諭吉 ============================== 頭書大全 世界國盡 歐羅巴州 三 ------------------------------ えうろつぱしう 「えうろつぱ」とちは「あじ あ」につらなれと そのさかひ めを たつぬれは ひかしのかた に「うらるさん」やまより --------------- いづる「うらるかは」すへは 「りかい」に なかれこみ「かう かすざん」のふもとより 「こく かい」こえて 「ちちうかい」「あ ふりかしう」と あひたいし --------------- 「じぶらるたる」の せとすぎて にしハいちめん「あ たらかい しうのなんぼく いつせんり とうざい いつせんしひやく より うちにつらなる し --------------- じうくの くにのだいせう きやう じやくも じせいによりて う きしづミ 「ろしあ」「ぷろ しや」「おうすとりや」 えいとふつと の ごヶこくハ たうじひので --------------- の ごたいこく とちのひろさ をくらぶれは ごたいしうの すへなれと せまきこくど にあきちなく じんミんつねの さんをえて ふこくきやう --------------- へい てんかいち ぶんめいかいくわの ちうしんと なのミにあら す そのじつハ ひとのおしへの ゆきとどき とくぎをおさ め ちをひらき ぶんがく --------------- ぎけいびをつくし ミやこいなかの しやべつなく しよはうにたつる がくもんしよ いくせんまんの かずしらす かのすぎはひの やすくして --------------- かのしやうばいの はんじやうし へいびととなひ ぶきた りて せかいニほこる たい へいの そのミなもとを たつぬる に もとをつとむる がくもん --------------- のえだにさきたる はな ならん はなみてはなを うらやむな もとなきえた にはなハなし ひとりの がくにいそくこそ あゆ --------------- ミはかとる まはりミち とも にたどりて せいやうの ミち にさかゆる はなをミん 「いぎりす」は「ふらんす こく」の きたのうミ ひとりはな --------------- れし しまのくに「すこつと らんど」「いるらんど」「ゑんげらんど」の さんごくを あわせて がつしやうわう こくの ゐめいかかやく いちきやう こく じんミん にせんくひやくまん --------------- ひやくこうぎげい まきたはた さん ぶつのこる ところなく なか にもおほき てつせきたん じよう ききかいの ミなもとは もちひて つきぬ むじんざう ちゑ --------------- きはまりて ゆうせうし ミづを わたるに じやうきせん ばん りのなミも おそれなく りく ちをはしる じやうきしや は ひとにつばさの しんくふう --------------- とぶよりはやき でんしん き またたくひまニ せんばんり つげてこたふる きうびきやく うちとそととの しんぶんを たがひにきひて あひつたふ もも --------------- のとくわいの ちうしんは「てい むす」かはんの「ろんどん ふ」ひろきせかいニ たぐひ なき ばんこくいちの たいと くわい とうざいさんり なんぼくは --------------- にりのあひだに たちこもる のきばハ くしのはを ならへ きりをたつへき ちもあらす じんこうにひやく はちじうまん わうらいくんじゆ くも --------------- をなし よるハさんじう ろくまんの がすのともしび かかやきて みそかのやミも ひとしらす ちうやたえ なき ばしやのこゑ --------------- しかいのなみも おとしづか ミなとニつなく ばんこくの ふね のながめは もりはやし こ のはをちらす かわ じようき かわニかけたる てつ --------------- きやうを はしるじようきしや やのごとく けさミし ともも ゆふべにハ せんりへたつる たびのそら いそくたびぢ ニ こころせき くわしきこと --------------- ハ またのひと なごりお しくも「ろんどん」を わかれ てミなミ「どううる」の せと のわたりハ くりあまり わた りてあがれは --------------- 「ふらんすこく」にしのさかひ は「いそぱにや」ひがしは「べる ぎい」「すゐちつる」 とうざいにひやくろく じうり なんぼくおよそ にひやく より ミなみのかたニ「ちちう --------------- かい」かいがんちかき「こるしか も あわせてとちの くわうだいハ 「ろしあ」ニつづく ていゐ のくに じんこうさんぜんしちひやくまん ミやこ「ぱりす」のにん --------------- べつハ ただ「ろんどん」ニ およはね と しちうのいへの くわ びにして もじがくこう のはんしやうは せいやうしよ こくに たぐひなし くにの --------------- さんぶつ かずおほき なかニ も「りおん」のきぬびろうど さけハ「ぼるどう」「ちやん ぱんしゆ」めいしゆの しゆるい さんびやくしゆ としにつみだ --------------- す こくすうハ いくひやくまんの かずしらす おしてしる へし くにのとみ くにとみ ミひとのおほけれハ まもり のへいも またおほく ぐんかん --------------- だいせう ごひやくさう りくのへいしは ご じうまん ぐんきじうふく ととなひ て ざさしんたいの ただし きは せいやういちの きやうへい と ほまれをえしも --------------- ことハりなり 「ふらんす」の にしとミなミニ 「いすぱにや」くにのミやこは 「まどりつと」 むかしハ な だかきくになれと ひとの --------------- せいしつ おこたりて つとむるこころ うすけれは かせぎのミち も おとろへて くにのさんぶつ おほからす ぶんめいかいくわ の ありさまを「えい」と「ふつ」 --------------- とにくらへなハ はるかす とうのしもならん にしに まはれハ「ぽるとがる」「た ぐす」のかわの かわくちニ ひら きしミなと「りすぼん」は --------------- こくわうじうきよの ミやこなり とちのふうぞく せいすいは となりのくにニ ことならす ぶんがくぎげいの りうかう も いまハむかしニ ことかわ --------------- り めをおとろかす もの もなし 「りすぼん」の ミなとをさりて たちもどり ミなミひがしに のり だせは うしほのなかれ やのごと --------------- き「じぶらるたる」の せとのくち なんぼくわづか ろく しちり ミなミのかたハ あふり かしう きたニ たいする「えうろつ ぱ」にたいしうの くにさかい「じ --------------- ぶらるたる」の ようがい ハ「ちちうかい」の のんどくび ち りてんけんに したがふて きつきたて たる ほうだいは ばんこふ どうの だいばんじやく のんどおさへて --------------- せなをうつ「いぎりす じんのけんせいは ちちう かいに とどろきて おそ れなびかぬ ものはな し せとをまはれは --------------- 「ばりろしま」ひがしのかたの 「さるじにや」しゝりこえ て「いたりやこく」ほそくなが くながくつに くにのかたち をなぞらへて しゝりしまハ --------------- くつさきの ゆびのところに あたるらん くにのなんぼく さんびやくり きたにそびゆる 「あるぺんざん」ミなみハうミに つきいだし じかうやわら --------------- き ちミこえて しじの てんき こころよく わらふハはる のやまのいろ うたふはあきの ミづのこゑ やまとかわとの おもむきハ てんかむるいの かうふう --------------- けい きたのしよハうハ やゝさむ く やまたにうゆる くわのなへ たミ のかせぎは まゆならん にし かいがんハ「ろうまりやう」はうわう ぎようの れいちとて --------------- めいしよきうせき かす おほし 「いたりやこく」の ミなミより ひがしへわたり「ぎりしや」は ゆらいひさしき くになれ --------------- と いまハふうぞくおとろへて むかしのさまの あともみ す きたのとなりハ「とるこ」 とて にんじやうあらき いち だいこく じんかう さんぜんにひやく --------------- まん くにのとうざい あひわかれ ひがしは「あしあ」を おふ りやうし もとのせいふは 「えうろつぱ」ミかどのゐ けん かぎりなく ゆうしひやく --------------- くわん おしなへて しゆしよくニ ふける あくふうぞく ちしき とほしく ゐハたけく ひやくせんまんの せいミんハ おそれ おののくはかりなり --------------- 「とるこ」のきたの おふすと りや」「ろ」「ふつ」ニならふ いつてい こく ひがしへそゝく「だにうぶ」 の かわのほとりの「ういんな」 ハ ミかどりんきよの たいと --------------- くわい くににせうする さんぶつ は ごこくくたもの あさぶ どう きんぎんどうてつ おほしと そ きたにいづれは ぷろ しやこく じんかう いつせんはつひやくまん --------------- たミのおしへの ゆきとどき き せんなんによの しやべつなく も じをしらさる ものハな し ぶんおさまりて ぶひおこ り へいしさんじういちまんにん --------------- あさひののぼる いきをひニ よもの となりのくに／＼も おそれて なびくはかりなり ミなミのかたの せうこくハ 「うるてんぼるふ」 --------------- 「ばわりや」とう にしの さかひの「れいいんかわ」その ミなもとを たつぬれは やまさか たかき「すいちつる」くにのせい じハきやうわせい せうこくな --------------- れと いちやうに もじ のおしへの はんじやうし ひやく こうぎげい てをつくし たのあなとりを かうふらす「れい いん」のながれ きたにいで その --------------- かわしりの「おらんだ」は いつこく ちうニ やまをミぬ ひく きへいちに かわおほく ミづの うれひは きたれとも ひとのち しきの たくミにて しよハうに --------------- きづくどてつつみ たハたの わざに しゆせいし とち のさんぶつ すくなきも しよこく へわたる でぼうえき ひとの いしよくも ゆたかなり にし --------------- のとなりの「べるぎい」ハ も と「おらんだ」の とちなれハ そのふうぞくも ことならす のうかうしやうの すぎわひを つとめてうまぬ にん --------------- じやうは くにのふきやうの しるしなり 「べるぎいさりて きたの かた ゆきつくさきハ「でんまる く」ミやこは「こつぺんはあへん」 --------------- とて こくちういちの こうえきバ せとをわたれハ すえいでん」 にしのとなりの「のふるゑい」にし とひがしの りやうこくを いつニあわせて いちわうこく にしのミやこは「きり --------------- すちやな」ひかしハすとく ほるむ」とて ともにおと らぬ はんくわのち にこく のひとをあわすれは その かず しひやくさんじうまん ほくち --------------- のきこう さむくして ひらけしとちハ まれ なれと ごこくくだもの よくみのり やまよりいづる きんるいの なかにもてつは --------------- かくへつニ せかいむるいの めいひんなり 「すとくほるむ」のミなとよ り まきれミちなき ま ひがしは ていこく「ろしあ」の --------------- ミやこなる「しんとぺいと るぼるふ」なり そもそも「ろ しあ」のりやうぶんハ「あじあ」「あ めりか」「えうろつぱ」さんだいしう ニまたがりて とうざいにせんくひやく --------------- より なんぼくおよそいちせんり せ かいのとちを むつニわけ いちをたもてる いつせいふ せいさつ よだつのけんぺいを にきるは ミかどひとりにて ろくせんよ --------------- まんのじんミんのうえにたつた るむにのきミ しかいのなみ もしづ にて しづまるミよ のちにらんを わすれぬ かがみ あきらかに ぶんぶのおしへ --------------- おこたらす へいしのかず はろくじうまん くにのしよハうに まうけたる はつせんくひやくの がく こうに くじうごまんの けい こにん まなひてならふ げい --------------- じゆつも しだいにすすむ くに のとミ とミをたすくる さん ぶつハ ごこくじうるい あさ たばこ「うらるざん」のふもと には きんぎんどうてつ おひただし --------------- てぼうえきの はんじやうハ「ゑい」 「あ」しよこくに およはぬも うち につとむる のうのわさ くにのちから は ひびにまし つきニひろまる さかひのち きたをまもりて ミなミを --------------- せめ にしハはるかに「こくかい」 より りかいのへんの くに さかひ ちかくハ「から」の まんしうも なかばは「ろし や」にあわせられ てう --------------- せんこくの さかひまて いきをひ せまる さうたうの わしのはた かげ ひらめきて そのせいこうを いそかぬは うんうのとき を のぞむりよう このゆくすへ --------------- のありさまを いまよりはか りてさだめんは ちしやの けんにも かたからん | 福澤諭吉 ============================== 頭書大全 世界國盡 歐羅巴洲 三 ------------------------------ 歐羅巴洲 「歐羅巴」土地は「亞西 亞」に連れとその堺 目を尋れは東の方 に「宇良留山」々より --------------- 出る「宇良留河」末は 「裏海」に流込み「甲 賀巣山」の麓より「黑 海」越えて「地中海」「阿 非利加洲」と相對し --------------- 「治部良留多留」の 瀨戸過て西ハ一面「阿 多羅海洲の南北 一千里東西一千四百 餘里内に列なる四 --------------- 十九の國の大小強 弱も時勢に由て浮 き沈ミ「魯西亞」「普魯 士」「墺地利」英と佛と の五ヶ國ハ當時日の出 --------------- の五大國土地の廣裏 を較れは五大洲の 末なれと狹き國土 に空地なく人民恆の 産を得て富國強 --------------- 兵天下一文明開化の 中心と名のみにあら す其實ハ人の敎の 行屆き德誼を脩 め知を開き文學 --------------- 技藝美を盡し 都鄙の差別なく 諸方に建る學問所 幾千萬の數知らす 彼の産業の安くして --------------- 彼商賣の繁昌し 兵備整ひ武器足 りて世界ニ誇る太 平のその源を尋る に本を務る學問 --------------- の枝に咲きたる花 ならん花見て花を 羨むな本なき枝 に花ハなし一身の 學に急くこそ進 --------------- 歩はかとる紆路共 に辿りて西洋の道 に榮る花をミん 「英吉利」は「佛蘭西 國」の北の海獨り離 --------------- れし嶋の國「蘇格 蘭」「阿爾蘭」「英倫」の 三國を合せて合衆王 國と威名燿く一強 國人民二千九百萬 --------------- 百工技藝牧田畑産 物遺る所なく中 にも多き鐵石炭蒸 氣器械の源は用て 盡きぬ無盡藏知惠 --------------- 極て勇生し水を 渡るに蒸氣船萬 里の波も恐なく陸 地を走る蒸氣車 は人に翼の新工夫 --------------- 飛より疾き傳信 機瞬く暇に千萬里 告て答る急飛脚 内と外との新聞を 互に聞て相傳ふ百 --------------- の都會の中心は「廷 武須」河畔の「論頓 府」廣き世界ニ比類 なき萬國一の大都 會東西三里南北は --------------- 二里の閒に立籠る 軒端ハ櫛の齒を 竝らへ錐を立へき 地もあらす人口二百 八十萬往來群集雲 --------------- を成し夜ハ三十 六萬の瓦斯の燈火 燿きて晦日の暗も 人知らす晝夜絶 なき馬車の聲 --------------- 四海の浪も音靜 港ニ繋く萬國の船 ノ遠望は森林木 の葉を散らす河 蒸氣河ニ架たる鐵 --------------- 橋を走る蒸氣車 失の如く今朝見し 友も夕にハ千里隔る 旅のそら急く旅路 ニ心せき悉しき事 --------------- ハまたの日と名殘お しくも「論頓」を別れ て南「堂宇留」の瀨戸 の渡ハ九里餘わた り上れは --------------- 「佛蘭西國」西の界 は「西班牙」東は「白耳 義」「端西」東西二百六 十里南北凡二百 餘里南の方に「地中 --------------- 海」々岸近き「虎留鹿 も合せて土地の廣大ハ 「魯西亞」ニ次く帝位 の國人口三千七百萬 首府「巴里斯」の人 --------------- 別ハ唯「論頓」ニ及はね と市中の家の華 美にして文字學校 の繁昌は西洋諸 國に類なし國の --------------- 産物數多き中ニ も「里園」の絹天鵝絨 酒ハ「ぼるどう」「ちゃん ぱん酒」銘酒の種類 三百種年に積出 --------------- す石數ハ幾百萬の 數しらす推てしる へし國の富國富 ミ人の多けれハ保護 の兵も亦多く軍艦 --------------- 大小五百艘陸の兵士は五 十萬軍器戒服整 て坐作進退の正し きは西洋一の強兵 と名聲を得しも --------------- 理なり 「佛蘭西」の西と南ニ 「西班牙」國の都は 「麻土律戸」往古ハ名 高き國なれと人の --------------- 性質懶りて勤むる心 薄けれは稼の道 もおとろへて國の産物 多からす文明開化 の有樣を「英」と「佛」 --------------- とに較へなハ遙數 等の下ならん西に 廻れハ「葡萄牙」「田 楠」の河の河口ニ開 きし港「里須盆」は --------------- 國王住居の都なり 土地の風俗盛衰は 隣の國ニ異ならす 文學技藝の流行 も今ハ昔日ニこと變 --------------- り目を驚かすもの もなし 「里須盆」の港を去りて 立戻り南東に乘 出せは潮の流失の如 --------------- き「治部良留多留」の 瀨戸の口南北僅六 七里南のかたハ阿非利 加洲北ニ對する「歐羅 巴」二大洲の國堺「治 --------------- 部良留多留」の要害 ハ「地中海」の喉頭地 理天險に從て築立 たる砲臺は萬古不 動の大磐石喉押て --------------- 背を打つ「英吉利 人の權勢は地中 海に轟きて恐 れ靡かぬものはな し瀨戸を廻れは --------------- 「馬里留嶋」東の方の 「猿路仁屋」獅子里越 て「伊太里國」細く長 く長靴に國の状 を擬て獅子里嶋ハ --------------- 靴先の指の處に あたるらん國の南北 三百里北に聳る 「阿留邊山」南ハ海に 突出し時侯和ら --------------- き地味肥えて四時の 天氣快く嗤ふハ春 の山の色歌ふは秋の 水の聲山と川との 趣ハ天下無類の好風 --------------- 景北の諸方ハやや寒 く山田に殖る桑の苗民 の稼は繭ならん西 海岸ハ「羅馬領」法王 御宇の靈地とて --------------- 名所舊跡かす おほし 「伊太里國」の南より 東へ渡り「希臘」は 由來ひさしき國なれ --------------- と今ハ風俗衰へて 昔日の樣のあとも見 す北の隣ハ「土留古」 とて人情粗らき一 大國人口三千二百 --------------- 萬國の東西相分れ 東は「亞細亞」を押 領し本の政府は 「歐羅巴」帝の威 權限なく有司百 --------------- 官おしなへて酒色ニ 耽る惡風俗知識 とほしく威は猛く 百千萬の生民ハ戰 慄くはかりなり --------------- 「土留古」の北の墺地 利」「魯」「佛」ニ竝ふ一帝 國東ヘ灌く「駄入部」 の河の畔の「宇陰奈」 ハ皇帝臨御の大都 --------------- 會國に生する産物 は五穀果實苧麻葡 萄金銀銅鐵多しと そ北に出れは普魯 士國人口一千八百萬 --------------- 民の敎の行屆き貴 賤男女の差別なく文 字を知らさる者ハな し文脩て武備起 り兵士三十一萬人 --------------- 旭の昇る勢ニ四方の 隣の國々も恐れて 靡くはかりなり 南の方の小國ハ 「宇留天保呂富」 --------------- 「馬和里屋」等西の 堺の「禮陰河」その 源を尋れは山坂 高かき「端西」國の政 事ハ共和政小國な --------------- れと一樣に文字 の敎の繁昌し百 工技藝手を盡し 他の侮を被らす「禮 陰」の流北に出その --------------- 河尻の「和蘭」は一國 中ニ山を見ぬひく き平地に河多く水 患は來れとも人の知 識の巧にて諸方に --------------- 築く土堤塘田畑の 業に出精し土地 の産物少きも諸國 へ渡る出交易人の 衣食も饒なり西 --------------- の隣の「白耳義」ハも と「和蘭」の土地なれハ 其風俗も異ならす 農工商の生産を つとめて倦まぬ人 --------------- 情は國の富強の しるしなり 「白耳義去りて北の 方ゆき付く先ハ「嗹 國」都は「骨廳波邊」 --------------- とて國中一の交易場 瀨戸を渡れハ端典」 西の隣の「能留英」西 と東の兩國を一ニ合せて 一王國 西の都は「錐 --------------- 須知屋奈」東ハ須德 保留武」とて共に劣 らぬ繁華の地二國 の人を合すれはその 數四百三十萬 北地 --------------- の氣侯寒くして 開けし土地ハ稀 なれと五穀菓實 よく登り山より出る 金類の中にも鐵は --------------- 格別ニ世界無類の 名品なり 「須德保留武」の港よ りまきれ路なき眞 東は帝國「魯西亞」の --------------- 都なる「新都平土 留保留府」なり抑「魯 西亞」の領分ハ「亞細亞」「亞 米利加」「歐羅巴」三大洲 ニ跨て東西二千九百 --------------- 餘里南北凡一千里世 界の土地を六ニわけ 一を有てる一政府生殺 與奪の權柄を握るは 皇帝一人の手六千餘 --------------- 萬の人民の上に立 たる無二の君四海の波 も靜にて鎭る御世 の治に亂を忘れぬ 鑑明らかに文武の敎 --------------- 懈たらす兵士ノ數 は六十萬國の諸方に 設けたる八千九百の學 校に九十五萬の稽 古人學て習ふ藝 --------------- 術も次弟に進む國 の富々をたすくる産 物ハ五穀獸類苧麻 煙草「宇良留山」の麓 には金銀銅鐵夥し --------------- 出交易の繁昌ハ「英」 「亞」諸國に及はぬも内 に勤る農の業國の力 は日に增し月ニ弘る 堺の地北を守て南を --------------- 攻め西ハ遙かに「黑海」 より裏海の邊の國 さかひ近くハ「支那」の 滿洲も半は「魯西 亞」に并せられ朝 --------------- 鮮國の堺まて勢 せまる雙頭の鷲の旗 影颺きて其成功を 急かぬは雲雨の時 を望む龍この行末 --------------- の有樣を今より圖 り定めんは知者の 見にも難からん |