福澤諭吉 ============================== 頭書大全 世界國盡 阿非利加洲 二 ------------------------------ あふりかしう 「あふりかしう」のくわうだい ハ ごたいしうの たいにばん なん ぼくにせんさんひやくり にしより ひかしにいたるまて ひろき --------------- ところは にせんより よものかいがん でいりな く いりうミまれに かわすく なく ないちのさまを さぐら んも ふねのゆききの たより --------------- なし ただかいがんの ひととほ り せいやうじんの せんさくを つくせしだけの ものかたり と ちはひろくも ひとすくなく すくなきひとも おろかに --------------- て もんじをしらす ぎ げいなく きたとひがしの す かこくを のそきしほか は いちやうに むちこん とんの いつせかい そのくにくに --------------- を かぞふるに「あじあしう」 の さかひなる「すへす」のにし の「えじぷと」ハ「あふ りか」いちの いちだいこく そのいにしへ は とるこより しはいう --------------- けし とちなれと いま ハはなれて どくりつこく くに のたうさい あひわかれ なか をなかるる「ないるかわ」かわの ひかしの「かいろう」ハ「えじぷ --------------- とこく」の ミやこなり かわ のあなたを なかむれは くもにひいつる ぴら みゐで たかさ しひやくはちじう しやく いしをつみたる せきたうは --------------- 「から」のばんりの ちやうじやう と ほまれをきそふ こ せきとて たつぬるひとの たえま なく「ないる」のながれ さかの ほり みなミにいてて --------------- 「のびやこく」またそのミなミ「あ びしにや」「せいかうかい」の せとのくち ミなみひがしに「そ もりこく」「いんど」のうミを ひだり にミ せきだうこえて ミなミ --------------- なる「さんぎうバる」と「もさんびく」 これ「あふりか」の とうごくすじ 「もさんびく」の ミなとより うミを へだてて「まだかすかる」「いんど かい」の せいハうに ひとりたち --------------- たる しまのくに じんミん し ひやくしちじうまん せいやうじん も ゆききして しやうはいし だいに はんじやうし くに のかいくわも ちかきとそ --------------- 「まだかすかる」の にしミなミ 「あふりかしう」の ミちの はて にしにまはれは「き バうほう」のそミはてなき さいかいの かぜにひらめく --------------- はたかけは しるしたがはぬ 「ゑぎりすりやう」「いんど」ち はうへ ゆくふねは ながのうミ ぢの「あたらかい」こえ てしはしの ていはくに --------------- たびのうさをも なく さめん よろこひのそむ ミさき とは しうしのじやうを くみ とりて なをくだしたる もじならん きぼうほう --------------- の にしのかた「ほつてんとち や」「しんべばし」せうげ「ぎん な」に「りべりやこく」また そのきたの にかこくは「し るられをん」に「せねが --------------- ミや」これ「あふりか」の さいこくすじ そのくにくにの あり さまハ ひがしのくにに ことな らす なかにひとつの「り べりや」ハ「あふりかしう」 --------------- の くにがらに いちしゆむるい の きやうわせい じんミんをよそ ごじう まん ぎじいんたてて ことをぎし「きたあめ りか」に りうかうの じゆう --------------- のふうを うつせしは くら きあまよに いつてんの ほし のかかやく ごとくなり きたに まはりて いちめんに「ち ちうかい」の きたぎしへ のそめ --------------- るくにの そうめうは「きたあ ふりか」の「ばるバり い」にしのはしなる「も ろくこ」は「あふりか」 いちの いちていこく きかう --------------- しづかに ちミこえて てんのめくみハ あつけれと きミのせいじの うすく して のうをつとむる ものもなし ひかしに --------------- となる「あるぜりや」 じんこう にひやくごじうまん いま をさること しじうねん 「ふらんすこく」に せめ とられ ふきどくりう --------------- の なもたえて ふつ よりやりし さうぶ ぎやう「わいすろい」とて ゐもたけく へいしぐん かん かずおほく にひやくよ --------------- まんの じんミんは ふらん すていの はたかぜを あふぎ てなびく はかりなり これよりひがし 「えじぷ と」の あひだにならふ --------------- くにくには「とにす」「とり ぽり」「バるかこく」またその きたに へざんこく おほむね をなし ゑびすびと をもてハ 「とるこ」にしたがへと なあ --------------- りてミなき しはいな り「あふりか」の ないち のさまハ しれさるも あら ましかきる くにざかひ ミなミの かたに「ゑちをぴや」な --------------- かに「そうだん」きたにまた 「さはら」のはらと となふる は せかいぢうの だいさ バく とうざい いつせんさんびやくり なんぼくおよそ しひやくより こ --------------- かげもミえぬ すな のうミ ここにゆききの たひ ひとハ らくだのせなを ふね にかへ すけつのかてを たくわへて きたとミなみに --------------- わたるとそ さばくはな れて にしきたの うミに いづれハ「までらしま」しまの しはいは「ぽるとがる」ぶ どうのびしゆの めいしよと --------------- て なたかきとちハ みさる とも ちのなにをなし までらしゆハ よろこふひとそ おほ からん まてらにとなる「か なりや」ハ かなりやてう --------------- の さとなれハ しまにさへつ る とりのかず しじかはらぬ はるげしき ことりのこゑと しま のなも ともにきこゆる めい しよなり にしにまわれは「わる --------------- だしま」「わるだ」のミなみ いちせんり さびしき「しんとへれ なしま」しまにめいしよは なけれとも「ふらんす くわうてい」「なぽれをん」「わ --------------- あとるろう」の たたかひに うん めいうすく うちまけて る ざいになりし ゆらいより しまのめいよも きこえけ り | 福澤諭吉 ============================== 頭書大全 世界國盡 阿非利加洲 二 ------------------------------ 阿非利加洲 「阿非利加洲」の廣大 ハ五大洲の第二番南 北二千三百里西より 東にいたるまてひろき --------------- ところは二千餘里 四方の海岸灣曲な く入海稀れに河少 なく内地の樣を探ら んも船の往來の便 --------------- なし唯海岸の一通 り西洋人の詮索を つくせし丈の物語土 地は廣くも人少なく 少なき人も愚かに --------------- て文字をしらす技 藝なく北と東の數 箇國をのそきし外 は一樣に無智渾 沌の一世界その國々 --------------- を計るに「亞細亞洲」 のさかひなる「末洲」の西 の「衞士府都」ハ「阿非 利加」一の一大國その古 は土留古より支配受 --------------- けし土地なれと今 ハはなれて獨立國々 の東西相分かれ中 をなかるる「内留河」河の 東の「海樓」ハ「衞士府 --------------- 都國」の首府なり河 の彼岸をなかむれは 雲にひいつる比羅 三井天たかさ四百八十 尺石を層たる石塔は --------------- 「支那」の萬里の長城 と聲價をきそふ古 跡とて尋る人の絶閒 なく「内留」の流さかの ほりみなミに出てて --------------- 「信野國」またその南「阿 彌志仁屋」「西紅海」の 瀨戸の口南東に「楚 森國」「印度」の海を左 に見赤道越えて南 --------------- なる「三義原」と「茂山比丘」 これ「阿非利加」の東國筋 「茂山比丘」の港より海を 隔てて「麻田糟輕」「印度 海」の西方にひとり立 --------------- たる嶋のくに人民四 百七十萬西洋人 も往來して商賣次 弟に繁昌し國 の開化も近かきとそ --------------- 「麻田糟輕」の西南 「阿非利加洲」の陸の 涯西に廻れは「喜 望峰」望はてなき 西海の風に颺めく --------------- 旗影は記章違はぬ 「英吉利領」「印度」地 方へゆく船は長の海 路の「阿多羅海」越え てしはしの碇泊に --------------- 旅行の鬱をもなく さめん喜ひ望む峰 とは舟子の情を汲 取りて名を下したる 文字ならん喜望峰 --------------- の西のかた「發天戸池 屋」「新部橋」上下「銀 名」に「理部利屋國」又 その北の二箇國は「志 留良禮恩」に「瀨根賀 --------------- 宮」これ「阿非利加」の 西國筋その國々の有 樣ハ東の國に異な らす中に一區の「理 部利屋」ハ「阿非利加洲」 --------------- の國柄に一種無類 の共和政人民凡五十 萬議事院たてて 事を議し「北亞米 利加」に流行の自由 --------------- の風を移せしは暗 き雨夜に一點の星 の燿く如くなり北に まはりて一面に「地 中海」の北岸へのそめ --------------- る國の總名は「北阿 非利加」の「馬留馬里 伊」にしの端なる「茂 祿子」は「阿非利加」 一の一帝國氣候 --------------- 靜かに地味肥て 天の惠ハ濃けれと 君の政事の薄く して農を勤むる 者もなし東に --------------- 隣なる「阿留世里屋」 人口二百五十萬今 を去ること四十年 「佛蘭西國」に攻 取られ不羈獨立 --------------- の名も絶えて佛 より遣りし總奉 行「わいすろい」とて 威も猛く兵士軍 艦數おほく二百餘 --------------- 萬の人民は佛蘭 西帝の旗風を仰 て靡くはかりなり これより東「衞士府 都」の閒にならふ --------------- 國々は「戸仁須」「戸里 堀」「馬留加國」また其 北に邊山國大略 同し夷狄人表ハ 「土留古」に從へと名あ --------------- りて實なき支配な り「阿非利加」の内地 の樣ハ知れさるも大 概かきる國境南の かたに「越尾比屋」な --------------- かに「宗段」北にまた 「佐原」の原ととなふる は世界中の大砂 漠東西一千三百里 南北凡四百餘里樹 --------------- 蔭も見えぬ砂 の海ここに往來の旅 人ハ駱駄の背を船 に代へ數月の糧を 貯へて北と南に --------------- 渡るとそ砂漠離 れて西北の海に 出れハ「麻寺嶋」々の 支配は「葡萄牙」葡 萄の美酒の名所と --------------- て名高き土地ハみさる とも地の名に同し 麻寺酒ハ悅ふ人そ多 からん麻寺に隣る「加 奈里屋」ハ加奈里屋鳥 --------------- の里なれハ嶋に哢 る鳥の數四時かはらぬ 春氣色小鳥の聲と嶋 の名もともに聞る名 所なり西に廻は「輪留 --------------- 田嶋」「輪留田」の南一千里 淋しき「新都邊禮 奈嶋」々に名所は なけれとも「佛蘭西 皇帝」「奈保禮恩」「和 --------------- 阿戸留樓」の戰に運 命薄く打負て流 罪になりし由來より 嶋の名譽も聞えけ り |