福澤諭吉 ============================== 頭書大全 世界國盡 亞細亞州 一 ------------------------------ せかいくにづくし ほつたん せかいハひろし ばんこく は おほしといへと おほをよそ いつつにわけし みやうもくは ------------------ 「あじあ」「あふりか」「えう ろつぱ」きたとみなみの「あめ りか」に さかひかきりて ごたいしう たいやうしうハ べつ にまた みなみのしまの ------------------ となへなり とちのふう ぞく にんじやうも ところかわれ ハ しなかはる そのさま ざまを しらさるは ひとの ひとたる かひもなし ------------------ まなひてうへき ことな れハ もんじにあそふ わらハベへ にはのをしへの こと はしめ まつふでとりて あら ましを しるすところハ ------------------ あじあしう まろきちきうの かよひじ は にしのさきにも にしあり て まはれハかへる も とのみち たまきのはしの ------------------ かぎりなき「たいへいかい」 の にしのかた「あじあしう」の ひがしなる わが「につぽん」を はじめと し にしのかたへと のりいだし そのくにぐにを たづぬるに ------------------ 「から」ハ「あじあ」のいちたい こく じんみんおほく とちひろ く みなミに「いんど」きたニ 「ろしあ」ひがしのかたハ「たい へいかい」せとをへたてて ------------------ につぽんこく きうしう ひぜんの ながさきより「から」のひ がしの「じやうかい」へ うみぢはづかニ さんびやくり じやうきせんの たび なれハ とをかのひまを つひや ------------------ して ゆきてかへるに あまりあ り みなみニ まはり「ほんこん」ハ 「いきりす」りやうの はなれしま しま にひらきし しんみなと しやうばい はんじやう とちにき ------------------ はひ とうやういちの みなとな り そもそも「 ら」のもの かたり むかし とうぐのじだい より としをふること し せんざい じんぎごじやうを をもん ------------------ して にんじやうあつき ふうな りと そのなもたかく きこえしか ぶんめいかいくわ あとすさり ふうぞくしだいニ おとろへて とくをおさめす ------------------ ちをみかかす われより ほかに ひとなしと せけんし らすの たかまくら ばうくんを りの ゐにまかせ しもを おさへし あくせいの てんばつ ------------------ のがるるところなく ころハ てんぽう じうにねん「いぎりすこく」 とふわをおこし たたいつせん に うちまけて わぼくねがひし つくなひハ やうぎん にせんいちひやくまん ご ------------------ しよの ミなとを うちひらき なをもこりさる むちの たミ りもなきことに へい たんを みだりにひらく じやくへい ハ まけてたたかひ またまけて いま ------------------ のすかたに なりゆきし そ の ありさまそ あはれなり 「あじあ」のミなミ いちめんの うミ にのぞめる「いんどち」は にし とひがしニ くべつして にしな ------------------ るかたハ「こういんど」ひがしのかた は「ぜんいんど」ここにな だかき くにぐにハ「しやむ」 「あんなん」「びるまこく」そのまた きたに「さいざうこく」せいふを ------------------ たてし くになれと じん きいやしく もんじなく せいやうじんの あなどりを うけて おそるる ばかりなり 「しや む」と「びるま」の あひ ------------------ たより みなミになが き「まらくくわ」ハ「すま たらじま」と あひたいし とう ざいわづか にじうより あひだ のうミを「まらくくわ」の ------------------ せととなつけて ばんこくの ふねのゆききも にきわしく せとを いづれハ「いんどかい」 きたへむかつて「べんがる」の いりうミ ふかく いりこめハ「をぐり」のかわ ------------------ の とうがんニ ひらきしミやこ ハ「かるこつた」「いぎりすりやう」の さうぶぎやう「いんど」ちはうを しはいして ぐんかんしやうせん かずおほく「あじあ」しよこくニ「い ------------------ ぎりす」の いせいかかや く ミなもとハ せんごいん ど」の りやうちとそ 「いんど」のにしの くにぐには 「あふ にすたん」「とる ------------------ きすたん」ミなみのはし の「びるちすたん」どくりう こくのなあれとも ふう ぞくあらき えひすのミ にし にすすみて「ぺるしや」は ------------------ よにもいはゆる ここくな り きげんいぜん ろくひやくねん 「しらすわう」といへるきみ となり のくにを ほろほして ぶ ゐを「あじあ」にとどろか ------------------ し つひてにせんゆうよねん じたいうつり ものかはり いちじ「もうこ」にせめとら れ せんごひやくねんの ころ にまた せいふひとたび あらたま ------------------ り「ふうひ」のよとそ とな へける 「ぺるしや」の いりうミへた て にしのかた すなはらひろ き「あらびやこく」ミなみのかた ------------------ に「あらびやかい」きたは 「とるこ」ニさかひして にし は「あじあ」のミちのはて かなたのぞめは あふり かしう なかをへたつる ------------------ 「せいかうかい」うミのミなみの ぢ つづきハ「すえす」のちきやうと なもたかき ひやくりはか りの てつどうの きたにいづ れハ「ちちうかい」「あじあ」 ------------------ 「あふりか」えうろつぱ」 さん ごくさかひの なかのうミ うミの ひかしハ「せうあじあ」「しり や」「あめにや」「ぱれすた いん」さうみやう「あじあとる ------------------ こ」とて「とるこ」のくにの りやうちなり 「しべりや」は「あじあ」 のきたに ひろかりて にし ハ「うらる」の ふもとより ------------------ ひがしのはては「あめりか」 へ ちかくむきあふ せ とのミつ ミなみは「か ら」ニ さかひして きたは はてなき ほくきよくかい とうさい ------------------ いつせんごひやくより なんぼく およそ はちひやくり「ろしあ」のりやう ちの くわうたいハ せかいばんこく ひるいなし ここにな たかき ぶきやうしよハ さい ------------------ こくすじに「とぼるすき」 とうごくすじに「いるくす き」ミなみさかひの「きあくた」 ハ「ばいばいじやう」に となりして 「から」と「ろしあ」の さん ------------------ ぶつを たかひニかふる こうえき バ ひがしへまはり「こくりよう かう」えしりにたてし「にこらい ふ」わがにつぽんの えぞち より けぶりもみゆる となり ------------------ くに ひがしのかたは「おこつき かい」うミにつきたす「か むさつか」「あじあ」のひかし はてにけり | 福澤諭吉 ============================== 頭書大全 世界國盡 亞細亞州 一 ------------------------------ 世界國盡 發端 世界ハ廣し萬國 は多しといへと大凡 五に分けし名目は --------------- 「亞細亞」「阿非利加」「歐 羅巴」北と南の「亞米 利加」に堺かきりて 五大洲 大洋洲ハ別 にまた南の嶋の --------------- 名稱なり土地の風 俗人情も處變れ ハしなかはるその樣 々を知らさるは人の ひとたる甲斐もなし --------------- 學ひて得へきことな れハ文字に遊そふ 童子へ庭の訓の事 始まつ筆とりて大 略をしるす所ハ --------------- 亞細亞洲 圓き地球のかよひ路 は西の先にも西あり てまはれハ歸るも との路環の端の --------------- 際限なき「大平海」 の西の方「亞細亞洲」の 東なる我「日本」を始と し西のかたへと乘出し その國々を尋るに --------------- 支那ハ「亞細亞」の一大 國人民おほく土地廣 くみなミに「印度」北ニ 「魯西亞」東のかたハ「大 平海」瀨戸を隔てて --------------- 日本國九州肥前の 長崎より「支那」の東 岸の「上海」ヘ海路僅ニ 三百里蒸氣船の旅 なれハ十日の暇を費 --------------- して往て歸るに餘あ り南ニまはり「香港」ハ 「英吉利」領の一孤嶋々 にひらきし新みなと 商買繁昌土地にき --------------- はひ東洋一の港な りそもそも「支那」の物 語往古陶虞の時代 より年を經ること四 千歳仁義五常を重 --------------- して人情厚き風な りとその名も高かく 聞えしか文明開化 後過去り風俗次弟ニ 衰て德を脩めす --------------- 知をみかかす我より 外に人なしと世閒知 らすの高枕暴君汚 吏の意にまかせ下を 抑へし惡政の天罰 --------------- 遁るるところなく頃ハ 天保十二年「英吉利國」 と不和を起し唯一戰 に打負て和睦願ひし 償ハ洋銀二千一百萬五 --------------- 處の港をうち開き なをも懲さる無智の 民理もなきことに兵 端を妄に開く弱兵 ハ負て戰ひまた負て今 --------------- のすかたに成行しそ の有樣そ憐なり 「亞細亞」の南一面の海 に臨める「印度地」は西 と東ニ區別して西な --------------- る方ハ「後印度」東の方 は「前印度」ここに名 高き國々ハ「暹羅」 「安南」「尾留滿國」其又 北に「西藏國」政府を --------------- たてし國なれと人 氣陋しく文字なく 西洋人の侮を受て おそるる計りなり「暹 羅」と「尾留滿」のあひ --------------- たよりみなミに長 き「滿落花」ハ「須磨 多良嶋」と相對し東 西僅か二十餘里閒 の海を「滿落花」の --------------- 瀨戸と名けて萬國の 船の往來も賑しく 瀨戸を出れハ「印度海」 北へ向て「辨輕」の入海 深く入こめハ「小栗」の河 --------------- の東岸ニ開きし都 ハ「輕骨田」「英吉利領」の 惣奉行「印度」地方を 支配して軍艦商船 數多く「亞細亞」諸國ニ「英 --------------- 吉利」の威勢かかや くミなもとハ前後印 度」の領地とそ 「印度」の西の國々は 「阿芙賀仁須丹」「土留 --------------- 喜須丹」ミなみの端 の「尾留知須丹」獨立 國の名あれとも風 俗粗き夷狄のミ西 に進て「邊留社」は --------------- 世にも所謂古國な り紀元以前六百年 「白洲王」といへる君隣 の國をほろほして武 威を「亞細亞」に轟か --------------- し次て二千有餘年 時代移り物かはり 一時「蒙古」に攻取ら れ千五百年のころ にまた政府一度改 --------------- り「富肥」の世とそ唱 へける 「邊留社」の入海へた て西のかた砂漠廣 き「荒火屋國」南の方 --------------- に「荒火屋海」北は 「土留古」ニ堺して西 は「亞細亞」の陸の涯 彼岸望めは阿非利 加洲中をへたつる --------------- 「西紅海」々の南の地 續ハ「末洲」の地狹と 名も高き百里はか りの鐵道の北に出 れハ「地中海」「亞細亞」 --------------- 「阿非利加」歐羅巴」三 國堺の中の海々の ひかしハ「小亞細亞」「尻 屋」「雨仁屋」「羽禮須多 院」惣名「亞細亞土留 --------------- 古」とて「土留古」の國の 領地なり 「志邊里屋」は「亞細亞」 の北にひろかりて西 ハ「宇良留」の麓より --------------- 東の涯は「亞米利加」 へ近かくむきあふ瀨 戸の水ミなみは「支 那」ニさかひして北は 邊なき北極海東西 --------------- 一千五百餘里南北 凡八百里「魯西亞」の領 地の廣大ハ世界萬國 比類なしここに名 たかき奉行所ハ西 --------------- 國筋に「戸保留須喜」 東國筋に「伊留久須 喜」南境の「喜阿久田」 ハ「賣買城」に隣して 「支那」と「魯西亞」の産 --------------- 物を互ニ易る交易 場東へ廻はり「黑龍 江」江尻に建し「仁古來 府」我日本の蝦夷地 より煙も見ゆる隣 --------------- 國東のかたは「御子突 海」々に突きたす「嘉 無薩加」「亞細亞」の東 はてにけり |